第32話 後継者と秋山からの依頼

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(8) 快足を活かし、1つ上の階まで戻ることに成功した。少し背丈のある灰色草が一帯に拡がっており、所々に身を隠せるほどの大きな岩がある。 「申し訳ございません」 「うむ……ここまで症状が酷くなるとはのぅ」 アリスも自力で立てるまでに回復はしたが、頭を押さえては苦悶の表情を浮かべている。 他のメンバーは、あの少女を含め、襲撃に備え俺たちを囲むように警備してくれていた。 「さて……手がかりになりそうな相手が現れたのにな」 「あなたのお陰で大分回復しました。ご迷惑おかけしました」 俺が所持していた状態異常のアイテムの効き目が早速でたのか、服用してからアリスの顔色は良くなった。 「これを」 アリスは装備していたアクセサリーを外して俺に渡そうとしてきた。 「ん?なんだ?」 「これは『はやぶさの髪飾り』です。装備すれは素早さがあがる貴重なアイテム。売っていただければ多少なりともお金になる筈です」 「をい!荷物持ちのあんちゃん!!剣聖のアリスの所持品なんて、オークションに出せば巨万の富が一瞬にして手に入るぜ!!やったじゃねーか」 他人事にも関わらず、自分の事のように喜ぶ参加者。聞けば、譲渡されたアクセサリーや武器には、現保有者の情報だけでなく、元所有者の名前とIDが表示されるらしい。 スナッチされた品、つまり盗品については、一定時間は譲渡扱いにならず、前回の所有者のみの情報だけが表示され、その後前回の所有者情報が消える仕組みだそう。 これにより、盗品かどうかの区別も認識できるらしい。 今回は、剣聖のアリスから正式に譲渡された品となれば『アリスの元持ち物』というプレミアがつく。 だが、 「いらない」 「な、何故ですか?!あなたが私に使用したのは、かなり貴重な回復アイテム。お金の方がよろしいですか?」 受け取らなかった俺に対し、少々困惑気味のアリス。 「いや、だから物も金も別にいらない。俺は荷物運びだ。俺が勝手にあんたを助けただけだ。気にするな。そんなことよりも教えてくれ。あんたのことを」 「……わかりました。あなたは命の恩人ですから、お話しします。 実は、あの子が魔法を唱えた瞬間、私の【魔女狩り】が発動してしまったのです」 「魔女狩りって、あれだろ?魔法を事前に察知する能力の事だろ?」 「えぇ……表向きは。あくまでそれは『結果』であり、本当の『効果』ではないのです」 「……どういう事だ?」 深刻な顔をしたアリス。グデンファーの顔を見てから、俺に答えてくれた。 「端的にお伝えします。魔法を使用する者を本当(・・)に殺めてしまうのです」
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