第26話 竜を統べし者と虎を掌握した者

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突然の爆発音に一瞬だが場が凍りついた。 「イオマンテ、近くに敵はいるか?」 俺はイオマンテにそう聞くと、数秒してから首を横に振った。 イオマンテは野生のbossということもあり、これまで数々の闘いを経験しているため、敵対スキルが実に豊富だ。 そのうちの1つとして【スキル:エリアサーチ】がある。これはイオマンテから半径50m以内で物体が動いた場合に神経回路を通じて把握できるスキルだ。 ただ、どの方向に何体いるかなどの詳細はわからない。あくまでも予備的なスキルである。 だが、俺が修得している【スキル:視力強化魔法】よりも断然に優れている。 視力強化は、目線の方向にだけ有効なのに対し、エリアサーチは360゚全方向が対象となっている。 現在、俺たち人間が扱えるジョブにエリアサーチのような使い勝手のいい類似スキルは存在していない。 その為、イオマンテがいてくれることで非常にありがたいのだ。 こいつ、戦闘に関してはエキスパートなのに、人との接し方に難があるんだよなぁ…… 噛まないように調教しないとな…… 「とりあえず、半径50m以内に敵はいない。その状況下での爆発は、恐らく他のプレイヤーが野良bossと対戦しているか、プレイヤー同士の小競り合いだろう」 「そう……かも」 「それに、今現在プレイヤーは、俺とソネルしかいない。まぁ、イオマンテはいるがな。それでも今日はリコも、西園寺も、リシャミーもいない。ハイカカオやテローゼは呼べばくるかもしれないが、この二人は呼べば漏れなく暴走しては、事態を大きくしかねない」 「確かに……今は二人っきりかも……」 「そう。二人だけだ。だから、ソネル……」 「は、はい……」 「さっきの爆発は聞かなかったことにしよう」 「へぇっ……?」 俺のいきなりの提案に戸惑うソネル。ソネルの予想では「二人で何とかしよう」と言われるつもりだったようだが、違う。 回避だ。 戦略的撤退だ。 ヒーラー医院を開業してから、変な事件や依頼に明け暮れる日々となった。 近くで爆発が起きたぐらいで、いちいち首を突っ込んでいたら、身体がいくつあっても足りない。 俺は火力無しのヒーラーだ。警察官じゃない。 この世界の秩序を任されたわけでもないんだから、今日という限られた余暇をソネルと一緒に味わせてくれ。 俺だって人間だ。疲れを癒したい。 今日はソネルの容姿を一日中()でるってそう決めたんだ。
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