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それから、幾度なくグデンファーの攻撃が元部下に向けられた。
格の違いっと言ったところが一番収まりが良い。
グデンファーの剣舞はリコやアリスとは違い、力みを全く感じさせない。しなやかな動きに反比例し、グデンファーの剣舞を力ずくで受け止めていたゼーフィアは苦悶の表情を浮かべている。
何とか受け止めている剣から腕にかけて、そして地面を踏みしめている脚全体が震えている。
それほど、重いのだろう。
「無慈悲ですね、元部下の私に対して」
「うむ……仲間を裏切ってまで叶えたい野望が、他者を脅かすことに美しさを感じた……とな?」
「えぇ。副総には理解してもらえるとは思ってませんよ。私と副総では剣を奮う理由が違いすぎます」
ライフゲージを削られつつも、自分の意思を貫き通しているゼーフィア。
「でも、お別れですね」
そう呟き、交えた剣を敢えて外したのはゼーフィアからだった。
奴は策を従えて行動に移した。
「ヘカテー!!アリスを殺すのです」
そう言い放ったかと思えば、グデンファーの攻撃を身体に受けつつも移動に徹してきたのだ。
抉れる肩の傷は深い。ゼーフィアのライフゲージも半分を下回り、赤い血液を現すエフェクトが華吹雪のように飛散している。
しかし、グデンファーとの交戦を生きた状態で回避できたという結果と比べたら、その代償は惜しくなかったのかもしれない。
ゼーフィアから新たな攻撃の一手を生み出せたのだから。
奴の狙いはアリスの殺害。
まずは、戦意を失っている彼女を狙うつもりなのだろう。
ヘカテーだけでなく、ゼーフィア自らもアリスの命を狙うため、全速力で移動していた。
「アリス君!!狙われておるぞ、構えなさい」
「だめ……です。わたし……手が……」
アリスは剣を握れずにいた。
自分を苦しめた魔女狩りの能力の真実に触れたことがショックだったのだろう。
腕が震え、剣を握ることに対し拒絶しているようだった。
「うぬ。ワシとしたことが……」
遅れて、グデンファーもゼーフィアの後を追う。
俺は、ヘカテーからの攻撃に備え、魔法発動のタイミングを窺いアリスの護衛に回ろうとした。
そのとき、グデンファーからの声が思考を妨げる。
「止さぬか、Dr.徳永!!これ以上魔法を唱えれば、アリス君に狙われかねないっ!」
そうだ。
アリスは魔女狩りの能力は健在。
先程、耐火魔法に回復魔法をノータイムで発動した際、冷たい殺気が俺に向けられた。
あれは間違いなくアリスから……
魔法を発動した俺に対して向けられたのだ。
獲物の匂いを発見した狼のように野蛮な視線を。アリスの無意識下に存在する魔法師への敵意が俺の存在を認識したのだ。
剣を握れずとも、魔女狩りの能力が発動すれば、彼女は我を忘れ俺の命を狙ってくるかもしれない。
……だからと言って、俺がすることは変わらない。
治癒師が行動に移す理由はただ1つ。
俺は無我夢中でアリスに近づき、耐火魔法を発動した。
間一髪。
僅かに俺の発動スピードがヘカテーの攻撃より優った。
アリスのライフゲージは僅かな減少で済んだ。
しかし、ゼーフィアは非情にもアリスを殺害するために必要な間合いまで詰めていた。
振り上げられた剣が怪しく光る。
「お別れです……元姫」
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