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確かに俺の耳にはそう聞こえたんだ。
アリスの命が今まさに奪われようとしていることを俺は理解した。
俺の脳は『彼女を救え』と命令が降りているはず。
しかし、身体は俺の命令を無視し、脱力したまま動こうとしない。
やけに温かい。
今までにない程の違和感に俺は目線をゆっくりと下げてみた。
朱色の小さなエフェクトが結晶となり、俺の身体から放出されている。まるでそこだけ時の流れが遅くなっているようにさえ感じた。
それだけだった。
真っ直ぐに俺の身体から突き抜けた刃は、目的を達成したようで、そのまま動こうとしない。
この静かな状況下で、やけに五月蝿く聞こえるLアラートの音が不釣り合いだ。
このまま静かに眼を閉じれば全てが静かに終わりそうなのに。。
残念ながら、全てが無に感じるほど静かだと感じないのは、俺のライフゲージがまだ残っているからなのか。
あ……
俺、アリスに刺されたのか……
朦朧とし始める俺の視界が不意に暗くなった。
大きい何かが目の前に塞がったのだと、理解したのは、それから間もなくの事だった。
グデンファーの悲鳴が聞こえるまでは……
「ぐぅ〝ぅぅあああ〝」
「なんと……神である私の一撃を、まさか片腕を犠牲にしてまで護るとは」
ゼーフィアの振りかざした剣はアリスを傷つけることなかった。代わりに、グデンファーの片腕を切断することとなった。
「彼も、献身的に護ったようですが、そんなアリスに攻撃されているだなんて……実に……ふふっ……いや、失礼。あまりにも滑稽でつい……」
笑いを堪えるゼーフィア。
彼の目に映っている俺やグデンファーの姿はどう映っているかは知らない。
だが、汚い笑みを投げつけられているような気がした。
「今……貴方たちはどんな気持ちですか?是非、お聞かせください、いっひ」
意外な質問に俺やグデンファーも笑ってしまった。
そして謀ったかのように俺たちは声を併せて告げる。
「衛れて何よりさ」と。
俺たちの余裕じみた回答に対し、業を煮やした黒幕が声を粗げはじめた。
「目障りですよ、貴方達」
感情的になっているのは間違いないようだ。既に目は笑っておらず、明らかな敵意をこちらに向けては持っていた武器を構え直した。
でも、
衛れて何よりさ。
みんなが攻撃できる時間を『衛れて』な。
ゼーフィアのライフゲージは再び減少を迎える。
蒼の一撃のメンバーがそれぞれ持てる最高の剣技を持って、手を弛めることなく攻撃に転じていた。
彼らの織り成す技は、まるで1つの連撃技のよう。
深く、強く、そして何かを断ち切るかのように、それぞれの技は光を帯びていた。
その光は元メンバーとの訣別を告げる哀しみの煜きにさえ感じた。
「お……おのれ……」
背中に多数の傷を負っても簡単な倒れない姿をみると、やはり肆番隊長だっただけはある。
「Dr.徳永……。まだ生きているなら見ておきなさい」
そう言って構えるグデンファー。今までの構えとは違い、肘を上げ、剣先を地面に向かうようにして静止していた。
片腕ではあるが、身体の軸が一切ぶれていない。
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