第32話 後継者と秋山からの依頼

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『おかしい』と心の中のどこかでは俺も思ってはいたさ。 『剣士』と名乗っているわりには、グデンファーから剣士特有の殺気を何一つ感じられなかったのだから。 だが、今は違う。 構えから溢れ出る覇気はまるで野獣そのもの。目の前の獲物を狩ることに全神経を注いでいるのが見てわかる。 彼の構えから放たれた斬撃は俺にとって衝撃的だった。 モーションすら肉眼でははっきりとは捉えきない。一瞬の出来事は蒼い閃光が現れたかのよう。それほど速かったのだ。速いだけならまだ理解できる。だが、彼の斬撃が終わってから遅れること数秒後、耳を(つんざ)く破裂音が辺りを襲った。 「蒼い閃光に重い単撃……まさか」 鈍いと言われがちな俺でもわかった。 彼等の所属している大型ギルド名がなぜ『蒼の一撃』なのかを。 唯一にして無二の頂点であるグデンファーの剣技に惹かれた者たちが、彼を慕い、尊敬し、継承または崇拝したいが結えに集まりできたのだ。 片腕を欠損してもなお雄々しくいられる理由がここにはあったのだ。 大量の紅いオブジェクトが光を屈折させながら飛散する。美しくも儚い光景と供に声にならない声が付属する。 「カッ……ハ……」 白目のまま口を開け倒れ込むゼーフィア。 彼は仮にもナンバー4。精鋭メンバーの1人として君臨していたのは間違いない。そんな彼でさえ、回避することも反撃することも許されず、ただ裁きを受けるだけしか出来ないのか。 グデンファー。 こいつ……底なしかよ。 長年、この世界をプレイしてきたが、こんな化け物染みた奴もいるんだな。 「うむ……仕留めきれずにいたか」 グデンファーに限って元メンバーに対し『手加減』をするような人間ではないことぐらいわかる。 それでも、瀕死のゼーフィアはまだライフゲージを残してなお立っている。 「効きましたよ……副総。やはり貴方の剣技は美しい……」 奴のライフゲージは僅かであるが輝きを残していた。 0と1では結末に大きな差が出る。 残されたことでまだ繋がる可能性をひめていた。 「お主がまさかロムの実を服用していたとは……惜別の情で腕が落ちたのかと落胆しそうだった」 「ご安心ください、副総。片腕でも威力は何一つ落ちてませんでしたよ」 グデンファーとゼーフィア。 お互いが睨みながらも間合いを確認していた。 「さて、降伏する気には……残念ながらなっとらんようじゃのう。お主……」 「流石、時代を築いてきた副総。おっしゃる通りで。私は全てに影響を及ぼす武器(一手)をやっと手にいれたのです……全てを滅ぼす武器(一手)を……」 「うむ……ヘカテー(あの子)の事か?」 「副総……あなたの眼にはヘカテーが何に見えますか?終焉(しゅうえん)の炎をただの(・・・)火属性の技の1つにしか見えませんか?」 「!!」 「ヘカテーには、私がプログラムした全てを注いだ結晶を植えつけました。……いや、正確にはまだ未完成でした。それも、やっと今注ぎ完了しました。あとは、私の合図1つで彼女は芸術作品(私の作品)へと駒を進めるのです」 「!!今まではただの『時間稼ぎ』だったのか?!よ、止さぬか!!」 脅威だと感じたグデンファー及び蒼の一撃のメンバーは総攻撃を仕掛けた。 が、ヘカテーへの愛を貫き通したゼーフィアが最後の合図を送る。 ヘカテーはゼーフィアの眼を見るなり焦った声で叫んだ。 「ここにいる皆さん、逃げてっ!!」 だが、ゼーフィアの命令が発せられる。 「ヘカテー。終焉(しゅうえん)で自分自身の感情を燃やすのです」
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