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(9)禁足地に来てからどれだけの時が経ったのだろうか。死ねば終わりの、ある意味分かりやすくも惨い場所。
そして、目の前にいるのは感情を失った終焉の姫、ヘカテーは独り。
彼女1人と言うこともあり、多少の犠牲をも厭わないのであれば、全員で撤退……なんていう策も有効だろう。
だが、これから地上へ戻るにしても、武器の殆どを失った俺たちが、ヘカテーからの追跡を振り切り、レッサーデーモンに遭遇することなく辿り着けるだろうか。
それも、武器を所持してるアリスに無理矢理闘わせて……?
はっきり言って非現実的だ。
やはり、目の前にいるヘカテーを気絶させ、それからアリスの治療に専念する方がまだ望みは……あるように感じる。
「Dr.徳永。立ち向かうのであれば、まずは回復魔法を唱え回復しなさい。アリス君が襲ってくれば、ワシが盾になろう」
グデンファーはそう言い、身を差し出す覚悟を見せた。
ありがたい話だ。
剣舞を突き詰めた猛者が、命をかけて俺の策に乗ろうとしてくれていた。無謀かもしれない俺の案に対し、疑う事も批判することも無く受け止めてくれていた。
確かに、俺はアリスからの攻撃をもろに喰らっており、ライフゲージは僅かしか残ってはいない。
そんな俺が指揮を取るのであれば、まずは俺のライフを安全圏まで上げておくのは定石だろう。
普段ならそうする。
普段なら……な。
「ありがたい提案だが、自分に対し回復魔法を唱えれば、即死なんだ。今の俺は人間じゃなくて『マミー』。打撃に対する免疫があるのも、この呪われた包帯の加護ってわけさ」
「ふむ。自らの治療はできない包帯巻きの白衣の治癒師とは……この世界にはワシの知らないお主のような『かぶき者』がおるとは」
「それ……褒めてるのか?」
「勿論じゃ。型にはまらないプレースタイル。ワシも昔はそうじゃった……お主を見ていたらやはり懐かしく感じるのぅ」
「昔ばなしに花を咲かせるのは、目の前の子を止めてからにしようか?それとも、亡くなる前にみる走馬灯って奴か?」
「安心せよ、Dr.徳永」
会話を続けながらもヘカテーからの攻撃に対し、剣技のモーションで粉砕した。
「をいをい。武器無しでも攻撃に対抗できるのかよ?」
「剣技の土台は肉体。伊達に何年も剣士をしてはおらぬよ」
こいつ。
武器を持ってないくせに、さっきよりもオーラが増してるじゃないか。
それに、どことなく表情も晴れている。
どうやら、グデンファーも腹をくくってくれたようだ。
「じゃあ、すまんがサポート……頼む。蒼の一撃からすれば、荷物運びの援護だなんて嫌かもしれないが、少しの間堪えてくれよ?」
そう言って、俺はヘカテーの元へ向かった。
様子をみて、標的をグデンファーから俺に移したヘカテー。
色褪せた炎が怪しく揺らめく。
ヘカテーが息を吹きかけようと、顎が少し上がったのを確認し、
「いまっ!」
攻撃を発動しようとモーションに入っていた僅かなタイミングで彼女の手首を下からアッパー気味に叩いた。
その効果により、終焉の火が消えた。
「お、おい……今のは……まぐれか?」
驚くメンバー。
ヘカテーも面を喰らったようだが、続いて発動を試みる。
「つぎ、ここ!」
続いて、頭板状筋の辺りを狙う。二度の発動が不発に終わる。
「いや、まぐれ等ではない……Dr.徳永は、やはり狙ってスキルキャンセル……『パリィ』をしておる!
あの、嫌がらせ行為……昔のあいつの技そっくりだ……」
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