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助けてはくれたが、まだ震えが治まらないアリス。
万全とは程遠い状態でありながらも、手を伸ばし、出せる力を振り絞って俺を助けようとしてくれた事を改めて感じる。
今見える世界は結して美しいとは感じない。色を失った草木が揺らぐこともなく此方を見ている。
動かない景色。
笑わない空間。
味も匂いも感じない、閉塞感。
でも、何故だろう。
この場には、グデンファーもアリスもいる。勿論、他のメンバーも、みんな同じ『死ねば終わりのリスク』の上に立っている。
誰かが圧倒的優位性を持っているわけではない。皆同じ境遇の中で踠いている。
同じ盤上で闘う木製の駒のよう。
攻めようが、護ろうが、
この限られたエリア内でしか動くしか術を持たない操り人形。
「元気そうで何よりだ」
俺はアリスに回復魔法を施す。心身ともに疲弊しきっているその身体に促進剤のように促す。
誰もが俺の行動を予測していなかった。勿論、アリス本人でさえ。
彼女は無意識に反応する。魔法への過剰反応。
存在事態を拒絶するその様はアナフィラキシーショックと変わらない。
強い抵抗感は運動神経を介して握られた剣へと移行する。
人間の感情の中で、一番抵抗が少ないのは憎悪である。
遠ざけたい。避けたい。視界から消えてほしい。
何一つ和解の可能性のないこの感情は、他の感情との共存はあり得ない。
だからこそ『魔法者を殺せ』というプログラミングを植えつけられてしまった姫は、俺に対し遠慮のない攻撃を繰り出す。
だが、すまんな。アリス。
折角の攻撃で大変恐縮なんだが……
「なんと……!!あの太刀が見えるのか……」
グデンファーは、焦りに似た表情を浮かべている。
その視線の先、やや数メートル離れたところに、アリスの愛刀の刃を摘まむ俺の姿がそこにはあった。
簡単さ。
ヘカテーに比べれば至って単純な事。
殺そうとする動作に変化を加えてないのだから。
先ほどのヘカテーのようにブラフを用いて相手を欺く行為や、タイミングを外すなど変化を加えた行動に出られれば俺も少しは警戒するかもしれない。
だが、わかったんだ。
魔女狩り中のアリスの攻撃は、対象物を排除することだけに囚われており、最短で俺の命を狙ってくる。
一心不乱に。
であるならば、狙われる箇所やタイミングなんて考えれば容易にわかるということだ。
「あの……また、私……」
正気に戻ったアリスは握っていた手を離しオロオロとした様子を見せる。
「駄目だ、アリス。離すな」
「えっ?!」
「握る事を拒めば、本当に今後握れなくなるぞ?苦手意識を植えつけると厄介だ。安心しろ。さっき見ただろ?アリスが無意識下で俺を殺そうとする分には俺は死なない」
白衣の汚れを少し払う。
「俺は健全で元気な医者だからな」
決まった……。
まさか、禁足地でドヤ顔しながらくさい台詞言う日が来るとはな……
蒼の一撃のメンバーにも俺の存在がわかってくれただろう。
すると、少し沈黙のあとアリスはこう言った。
「……。いえ、包帯巻いてるお医者さんはちょっとヤブ医者感が拭えません」と。
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