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目的を問うたとしても、果たして応えてくれるであろうか。予期せぬ来訪者は無言を貫きつつも俺たちの前に現れた。
ファラオを見るに戦闘態勢を取る一同。
無理もない。ファラオはライフゲージを保有し、名前の横にはご丁寧にも【BOSS】との表記があるではありませんか。併せて、怪しき熱量を纏っていれば誰しもが新たな追手と誤認してもおかしくはない。
本当に誤認……だろうか。
俺の影から突如現れただけで、俺の仲間という親しき関係性では一切ない。以前に交戦し、降参させた代償として使用済みの包帯を受け取っただけの浅い関係。打ち負かした事実だけに着眼すれば、恨まれていてもおかしくはない。
「リベンジ……ってわけでは無さそうだな」
ファラオは俺の首欲しさにポップしたわけではなさそうだ。奴の目線は俺に対して向いてなどいなかった。その先……ヘカテーに対してであった。
「あんたもヘカテーに用があるのか?残念だが俺の回診の方が予約済だからな?」
聞く耳を持ち合わせているかさえわからないファラオ。だが、ファラオの殺気はヘカテーに対して向けられていたが、自ら仕掛けるといった行動には移そうとはしていない。動向を注視する『見』に徹していた。
黒い火球が俺たちの視線を横切る。ヘカテーの攻撃は終わることを知らない。ただ忠実に、無関心さえ通り越した無表情のまま攻撃の手を弛めることはなかった。
アリスへのフォローに遅れる一同。彼女もまた握りきれていない動作で迎えようとしたがそれは無駄となった。
「えっ……」
驚きを隠せない姫の前に立ち塞がる旧王の姿がそこにはあった。
このままアリスに被弾していれば最悪のシナリオが待っていたのは言うまでもない。今は亡きゼーフィアと同じ運命を辿っていただろう。アリスの無事に肩を撫で下ろすグデンファーの姿もそこにはあった。
ヘカテーの攻撃を自らの拳で相殺を試みたファラオ。勿論、無事ではなかった。相殺しきれなかった分として、ライフゲージが僅かに減少していた。
焦げた包帯を見つめるファラオ。
「ありがとう……助けてくださって……」
恐れながらも礼を言うアリス。だがファラオからすればそんな事はどうでも良かったのだろう。ヘカテーのモーションに対し何度も分析をしている様子であった。
「Dr.徳永。アリス君を……あやつに任せていいものなのかな?何者なんだね」
「さあな。あいつ無口だからな……わかることとすれば……」
「すれば……?」
「ファラオは、俺が倒せなかったBOSSで、物理攻撃に対してカンストするくらいの耐久力がある。俺らも前回全滅しかけた記憶がある……だけど、安心しろ。奴はプレイヤーを取って食べるようなモンスター……ではないのは確かだ」
自慢げに言ってはみた。俺が出せる最大限の笑顔と親指を立てるプレゼント付き。
案の定グデンファーは苦笑いを隠せずに首を振っていた。
「君を理解するのは、長くなりそうだ」
「あぁ、そうしてくれ。ここでくたばるのだけは止してくれな。俺は、しがない治癒師だ。死人を異界に送る術は持ち合わせていないから、死んだから適当に穴ほって埋めるからな?」
『それはお粗末。是非避けたいところだ』と言いながら、俺とグデンファーはヘカテーに対してラストアタックまでのプランを共有した。
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