第32話 後継者と秋山からの依頼

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(10)  疲弊の渦の中にいてもなお、戦場にいることを求められている一行。各々が傷つき肩から息をするだけでもギリギリな場面で、二人は策を交わしていた。  お互い無言を貫いたままターゲットへと距離を詰める。距離にして数メートルではあるが、優しくもない無慈悲な炎が二人を何度も襲う。  堪らずライは先を行くグデンファーに対し耐火系の補助魔法を詠唱した。それに反応したのはアリス。俺を殺そうと剣を握る動作をみせた。  が、不発に終わる。  赤子をあやすかのように軽々しく彼女の剣先を摘まんでいるファラオの姿がそこにはあった。 「ビンゴ」  小さな声で呟くライ。  ファラオは、ゼーフィアがもたらした負の力に反応している。  ヘカテーの技やアリスの魔女狩りへの過剰な反応を見せるものの危害を加えるでもない。アリスが反応するようにわざと魔力を籠めたライの策により無口なファラオの行動パターンを1つ読み解くことに成功する。  ライのもたらした成果により、ヘカテーの攻撃およびアリスの暴走に対しファラオが反応することを知る。理由こそは掴めていないが危害や被害等は発生することはないだろう。  結果、二人は対ヘカテーへ全力を注ぐことが可能となった。  ライの施しにより、ヘカテーからの攻撃を軽減されているグデンファーにとって、突き進むことは造作のない事であった。  片腕を失いはしていても、戦場を駆ける心は失ってはいなかった。  ー低いー  この場にいる誰もが感じた瞬間でもあった。グデンファーはプレイヤーの中でも巨体の分類に属している。鍛え抜かれた筋肉を支えるよう、骨格もしっかりしていた。  そんな彼が低い重心を保ったまま躊躇うこともなくヘカテーへと確実に向かっている。  そして彼の剣舞を期待する者は多い。『蒼の一撃』の名前の由来でもある彼の技をこの眼で納めたいと願うばかり。  武器を持っていない彼ではあるが、それでも鍛え抜かれた身体で、ギルドを牽引してきた彼はこれまでいつくもの不可能を可能にしてきた。  届けば何かが変わる。誰もが期待という希望の眼差しをグデンファーへ注いだ。輝ける明日への光を求めて。  ただ、輝きを持たない熱量がそれまで潜んでいた姿をここで現す。接近戦を想定したヘカテーの隠していた炎の槍が足元から現れ、グデンファーの腹部を無惨にも貫いた。  ここで、非情にもグデンファーのベクトルが歪む。ヘカテーのすぐ側でゆっくりと倒れ、地面に横たわった。  グデンファーの武器が破壊されていなければ、もしかしたらヘカテーの奥の手よりも先にヘカテーを捉えれていたのかもしれない。  悔やむ心を隠せずにライはグデンファーの名を叫びながら近づいた。しかし、グデンファーはピクリとも反応できず動くことはなかった。  目的を変えたライの視線にはグデンファーしか写っていない。ヘカテーは無防備なライを仕留めようと炎の槍を出現させた。  まるで、狩りをするかのように無表情でライを見つめ、振りかざそうとしたとき、ある声がヘカテーの足元から聞こえた。 「 まさか旧友の技をワシが使うときが来るとはのう……」  そう呟いたのはグデンファー。彼女の握る手首を弾き、握っていた槍が手元から外れる。  グデンファーは死んでなどいなかった。魔法を地面に隠していたのはヘカテーだけではなかった。ライもまた、グデンファーが倒れるであろう場所に回復魔法の魔法陣を隠していたのだ。  死を迎えることなく生き延びたグデンファーは、静かに待っていたのだ。ターゲットがライに代わる瞬間を。 ー『パリィ』でヘカテーの隙をつくる瞬間をー  予期せぬ出来事にヘカテーは無防備となった。そこへ、ライのラストアタックがヘカテーを襲う。 「適切な施術だ、安心しろ」 ライの寸止めした拳から生まれた衝撃波により、ヘカテーのスタミナはゼロを迎え気を失った。
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