第32話 後継者と秋山からの依頼

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 ライの言葉で、場の空気が再度引き締まった。まるでこの禁足地に初めて潜入したときに戻ったかのよう。  Reスタート。スゴロクでは振り出しに戻るという升目が存在する。ゲームは始まっており、周りの参加者とゴールや財の量を競いあう最中でありながら『スタート地点からやり直せ』という命令に背くことはできない。言わば、プレイヤー泣かせのマスである。  だが、今回ばかりは違った。これまで、その能力に自分一人が苦しんでいたばかりでなく、魔法の発動者に対し無意識で危害を加えてしまっていた。蒼の一撃のメンバーは、魔法を禁じてはいたが、それでも被害を0にすると言った事は出来ずにいた。 ーその呪われた力をー 『目の前にいる敵が壊して、振り出しに戻れるかもしれない』  緊迫した空気にならないわけがなかった。 「どうだ、できるか?それが俺の用だ」  ライの質問に注目が集まる。ヘカテーはずっと考えたままだが、アリスの方をじっと見つめていた。 「不純」  ボソリと呟くヘカテー。その言葉を聞いたライをはじめ、全員の肩の力が抜け、逆に急に重たくなったかのように落胆した。  誰もが、ヘカテーの発言を「不純な動機だから力は貸さない」と解釈した。  だが、ヘカテーの言葉には続きがあった。 「あれは真の力ではない、不純。宿主と全く噛み合っていない」  そう言いながらヘカテーは、終焉(しゅうえん)の炎で大剣を生み出したかと思えば、アリスの身体に対し振り抜いた。だが、アリスのライフゲージは1ミリも減ってなどいなかった。 「ヘカテー、もしかして」 ライの問いに対しヘカテーはあっさり応えた 「不純な部分を壊した。これで用は済んだ」  そしてヘカテーは自ら生み出した炎に身を 纏い一瞬で姿を消した。 「もしかして、ヘカテーの奴アリスの身体治してくれたんじゃないのか?!」  確認できる術は1つしかない。ライは魔法陣を出現させ、回復魔法をアリスにかけてみる。  アリスはライを襲うことも傷つけることもなく、ありのままの施しを浴びることに成功していた。  アリスのライフゲージが回復する度に野郎共の野太い歓声があがった。これまで苦しんで、それでも耐えることしか選択肢がなかった、呪いが破壊され、消滅し、存在しなくなったのだ。 「どうだアリス、気分は?」  勿論、アリスの手に武器は握られていない。剣聖と呼ばれている彼女でさえ両手であふれでる涙を塞き止めようとするのがやっと。  そんな彼女から声にならない声でライに言葉を渡したのであった。  
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