第33話 リコ 欲しがりにつき

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「な~に~よ~~この記~事ぃ」  伸ばせば良いってものではない。そんな事をされれば、逆に聞こえづらくなっているじゃないか。いや、(とが)めるのは、この場合俺なのかもしれない。  血相を変え、診療所に入ってくるなり「ちょっと、院長!!何なのこの記事は?!」と怒りながら詰め寄ってきたから、宥める意味もこめて「何だって?」と優しく言ったつもりが、彼女の怒りゲージを上げてしまうバフ系魔法にどうやらなったようだ。 「俺だって知らないさ」 「はぁ?!知らない??これ見ても?!」  リコの手に握られた、とある情報誌。くしゃくしゃになっている『それ』は、俺が最も嫌いな物であった。  嘘。偽り。紛らわしい表現だらけ……。どこかに相談したらいいJARO(じゃろ)かと考えさせられる程、醜いニュースペーパーである。  以前、ズンセックが見せてくれたときの記事は確か、『格闘家ヒーラー医院の荒治療で暴れる黄虎族(パトリオット)翼竜族(リフォーマー)の両部族を拳で制圧?!』と記載されていた。  あの時は、麻痺毒を利用して殴っただけの事。仮に、ファラオから譲り受けた由緒正しきボロ包帯をその時撒いていれば、スタミナキルによる失神もありえた。そうなると記事の見出しは、もっと過激な事が書かれていたたことは明白だ。  今となっては、両部族の件の後にファラオのクエストがあって良かったとホッとしている。  でも、最近ラストアタックが殴ってばかりであることも事実。治癒師(ヒーラー)である俺の勝利の方程式が武力による制圧とはアンバランス極まりない。  もしや、あの記事を書いたライターは、俺の行動パターンをも予想していたのではとさえ思う。  ただの記者だと侮っていたが、もしかして『預言者』だという線も残されている……  おのれ、預言者め。俺の不利になるような事ばかり文字化しやがって……もし、フィールド内で出会した際には「ふはははは。貴様を(ろう)人形にしてやろうか」と言いながら2度と預言が出来ないような身体に手術してやろうかと企むところである。 「もしも~し!!ラグってますか~?起きてますか~?」  俺の耳元で大声で叫んでいる二刀流バーサーカー様の姿がここにありけり。つい、違うことに気を取られていて、怒鳴られていたことさえ忘れていたのである。 「あぁ、勿論聞いていたさ」 「じゃあ、何なのこの(きぃ)(じぃ)は?!」  目の前に突き出された記事に目をやる。 『治癒師(ヒーラー)と剣姫 禁断のエリアで何が……』  をい。  をいをい。預言者よ。  仕方ない。俺が預言してやろう。いや、宣言してやろう。  マジで逢ったらおぼえてろよ。目が合っただけだけでもバトル開始の合図と見なすからな。まっサラなタウンまで拳で吹き飛ばして、強制ログアウト(さよならバイバイ)といこうじゃないか。  俺はリコの誤解をとくために、アリスにこれからここへ来るように先ほどメッセージを送ったのだ。俺から言っても効果は薄い。当人であるアリスからも併せて直接説明して貰えば、記事が間違いであることを理解してくれるだろう。  
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