第33話 リコ 欲しがりにつき

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「おおお姉ちゃんどうしよう……ライさんが美人さんに取られちゃう」 「だだ大丈夫よ、こう言う場合は整数を数えると落ち着くって聞いたことがあるもん」  アリスの先制攻撃は効果抜群であった。いきなり宣戦布告されたことに対し動揺を隠せないでいる。そして、リコよ。整数を数えてどうする。  しかし、まさかアリスを招いた事がこうも裏目に出るとは考えもしなかった。アリスは冗談を言うようなプレイヤーでは無いことくらい、出逢って日が浅い俺でもわかる。  だが、そんなお願いを当人である俺に相談もなく進めてもらうのは非常に宜しくない。むしろ、そんなお願いをリコやソネルに伝える方がおかしい話。とりあえず、アリスを召還しようと安易に思った俺が浅はかであった。出来ることならメッセージを送る前まで戻りたいものだ。  仕方ない。戻るか。  (いにしえ)より受け継がれた聖なる包帯よ。『少し前に戻りたい』という主の願い、叶えたまえ~~  俺は柄になく心で願ってみた。  ……だが、何も起きなかった。  ん?この包帯は万能だから、なんでも思い通りになるウルトラCならぬ、前方伸身宙返り3回半ひねりのようなG難度の機能が搭載されていると思うのだが……  ひょっとしてポーズが必要なのだろうか。  俺は両手を頭上に広げ天を見上げた。  しかし、何も起きなかった。 「カランコロンカラン。ちょいっとお邪魔するで~」  俺が口笛を吹きながら、時を戻そうとしている最中に新たな人物が入り口から現れた。  悪いが、俺の診療所の入り口は、レトロな喫茶店の入店時になる音なんてしない。  目線をやると入り口には少し背の低いプレイヤーがたっていた。目は細目。ずっと笑顔のままで鼻唄なんか奏でながらご機嫌な様子。  胡散臭さ満載。擬音を口で呟きながらやってきたコイツは絶対に怪しい人間だと一瞬で感じた。こんなところで油なんか売ってないで医者に診てもらった方が良いのではとさえ思う。  分析魔法を古代詠唱で発動し、誰にも気づかれずに不審者さんを調べる事にした。 名前はムート。ジョブは精霊師の様だ。面識はなく、勿論俺の患者でもなさそうだ。 「隊長(たいちょう)……」  そうそう。体調(たいちょう)が優れない方のようだ。早くお引き取り願おう。 「アリスたん。俺はもう蒼の一撃のメンバーやない。隊長はアリスたんになってもらうよう、じいやにお願いしといた筈やで?」 「グデンファー副総長から、勿論お聞きしましたよ。私に何故ご相談いただけなかったのです?」 「えぇやん。grandfather(グランファー)も納得してくれとったで」  会話から察するに、グデンファーを『じいや』だの『グランドファーザー』だの爺さん呼ばわり出来る人間はこの世界で一人しかいないだろう。 「こいつ……もしかしてハバか?蒼の一撃の総隊長の」 「ピンポーンと言いたいけど、もう違うねん。ゼーフィアンとの超絶バトルで死んでしもうて、ハバやったときのデータ全部消去されてしもうたねん。今は『ムート』ちゅうネームで始めからやり直してるねん。俗にいう『弱くてNEW GAME』ってところやな、あはははは」  この能天気な奴が、あの巨大ギルドを束ねていた頂点のハバとはな。 「アリスたんや、仲間を助けてくれてありがとうな。……ま、あんたみたいな実力もってる治癒師がアイテム運搬係だなんて、けったいなブラフで参加してたんは怪しい所だらけやけどな。『単独』プレイ……と見せかけといて、後ろには変な組織絡んでるんちゃうかと疑ってしまうわ。それに、魔法で覗いても大した情報なかったやろ?言うてるやん、NEW GAMEしたばかりやって」  まるで推理小説を読んでいるかのように、次々と言い当てているハバ。人の心を見透かしているような攻め方は、西園寺に似た独特の怖さを感じる。それに俺の即時魔法を見破るとは…… 「入室時のメディカルチェックだ。気にしないでくれ、バハムート(・・・・・)さんや」 「おぉ?!名前のネタに気づいてくれたん?!めっちゃ嬉しいわ!!」  俺の指摘に素直に喜ぶムート(ハバ)。アカウントが破壊され、再登録したとはいえ、こいつのカリスマ性・魔法に対する嗅覚はどうやら本物のようだ。  
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