第33話 リコ 欲しがりにつき

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(2)  嫌な予感しかしなかった。テローゼちゃんの発案に対しノータイムで「強くなりたい」って答えちゃったせいで、私のソネルちゃんの2人は今テローゼちゃんの強引な案内により知らない場所まで来ています。  薄気味悪い景色がさっきからずっと続いてる。フリーフィールド内であることはわかっているんだけど、木々が生い茂りすぎて空の明かりが全く届かないこんな場所は、どんなプレイヤーでも無意識の内に避けている。  勿論、中には肝試し感覚で潜入する人もごく一部いるけど、こういう未開拓な場所のモンスターは決まってレベルが高く、ソロや少人数ギルドでは即死するのが関の山。  そんな危ない場所に、私とソネルちゃんの2人はテローゼちゃんに拉致されました。 「お姉ちゃん……」  不安げな声で私にしがみつくソネルちゃん。わかるよ、私も同じ想いだよ?  先ほどからモンスターには遭遇しっぱなし何です、実は。モンスターレベルが180台の死神に、レベル150台のデュラハンが多数。ライフゲージを確認したところ一体あたり3本から4本。普通にクエストのBOSSが務まりそうなモンスターばかりがこちらをじっと見つめている。  唯一の救いが、モンスターのライフゲージの横に【休戦中】との文字が表示されている事だけ。恐らく先頭でガイドしてくれているテローゼちゃんがゴースト系のBOSSって事もあって無闇に襲っては来ないのだと思う。 「テローゼちゃん、後どれくらいかな?」 「歩クノ疲レタカ?」  ううん。違うのテローゼちゃん。私やソネルちゃんはこう見えて闘い慣れしてるから歩いただけでスタミナゲージが枯渇することはないの。ただ、周りにいらっしゃる魔物の方がお強そうで、しかも苦手なゴースト系の方たちでして。正直言って怖いんです。  苦手なモンスターの真ん中を歩くランウェイ。とてもじゃないけど、モデルさんのように背筋を伸ばし気高くスタスタと歩けるような気分ではない。  むしろ逆。引き腰気味の覚束(おぼつか)ない足取り。正直、この場に院長がいなくて良かったのかもしれない。カッコ悪い姿見られちゃうと、幻滅されちゃうもんね……。  そもそも、テローゼちゃんの提案に二つ返事で来ることになったのも、あの蒼の一撃のアリスさんのせいである。 「お姉ちゃん……意外だった」 「ほ?こんな怖い所に来ちゃったことに?」 「ううん。それもあるけど『あの美人さんより強くなろう』って事は、お姉ちゃんより強いって事……だよね?闘った事あるの?」  二刀流や一刀流の差はあるけれど『剣士』という括りでは同じ。私は、以前蒼の一撃に誘われていた事や、その誘いを断った事をソネルちゃんに伝えた。  私は他人の気持ちを考える事、自分の想いを相手に伝えることが苦手。そんな私が大型ギルドに入っても窮屈で楽しめないだろうと感じたからだ。『二刀流バーサーカーのリコ』はこのゲームで知られていても、私の性格や悩み、欠点を知ってくれている人は当時誰もいなかった。  そう。院長と出逢ってから、全てが変わったんだ、私…… 「アリスさんと直接剣を交えたのは1回だけ……ね。あるの」
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