第33話 リコ 欲しがりにつき

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(3) 「サァ、強イカラ気合イ入レロヨ?」  妙に乗り気なテローゼとは対照的に空開いた口が塞がらないリコとソネル。テローゼからすれば、この前『仲間』だと言ってくれた二人に恩返しが出来ると思い張り切っているのだろう。 「ソネルちゃん。回復アイテムって持ってる?」 「ごめん、お姉ちゃん……ない」  ソネルはジョブ:詐欺師をマスターしている。詐欺師のラストワードである『雲隠』の永続効果により、取得済の他ジョブの魔法を確率的に発動を成功させることが出来る。ソネルはヒーラーのジョブも一定習得しており回復魔法も発動しようと思えば出来ないことはない。  ただ、『雲隠』は運要素があり、発動を成功する確率はクエスト中なのか、フリーフィールドなのかで若干誤差がある。現在、フリーフィールドにいるとは言え、幽霊船(ゴーストシップ)に入る前に何かしらのイベントが発生し、クエストが始まるだろう。クエストの内容にもよるが、高レベルのクエストであれば成功確率が極端に減ることも最近になってわかってきた。  始まる前から不安要素だらけの状態。引き返そうにも、テローゼの案内が終了した時点で森にいたBOSS級モンスターの群れが一心不乱で此方を襲わないとも限らない。  リコとソネルが今にも沈没しそうな幽霊船(ゴーストシップ)を半目で見つめていたとき、状況とは不釣り合いなシステム音が鳴り、目の前にメッセージが表示された。 【スキルクエスト:難攻不落】に挑戦しますか?  いえ、挑戦しません。  っと、キッパリ拒否したいところではあるが、二人に残された道はなかった。 いや、挑戦する道も存在してなかった。 「お姉ちゃん……見て」  表示されていた説明文を指差すソネル。そこには注意書きとして【※船内に移動できないプレイヤーは参加できません】との文字がご丁寧にも赤字の太字、下線付きで記載されていた。周りを見渡せば船に移動するための橋のような物はどこにも存在していなかった。  『この橋渡るべからず』ならぬ、『渡る橋すら存在していない状態。  「な~んだぁ。ガッカリして損しちゃったじゃない。渡る橋がないって事は、この船は休業中なのよ、きっと」  若干声が上擦る節があり、空回りしている。ソネルも少し安心したのか「じゃあ……仕方ないよね」と胸に手を当ててて大きく息を吐いていた。 「心配スルナ」  二人を心配させる声が聞こえた。  テローゼの言葉とともに、二人の身体がふわりと宙に浮いた。重力を奪われた身体は強制的に地上から離された。  テローゼの精神操作により、二人の身体に【特性:浮遊】が一時的に付与された。 「コレデ解決ダナ」  聞き取れないような声で「あはは」と笑いながら苦笑いを浮かべる二人であった。
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