第33話 リコ 欲しがりにつき

10/27
前へ
/345ページ
次へ
 テローゼの心配(こころくば)りにより、心下(こころくだ)りな二人。浮遊の効果により無事に甲板に到着したとき、無惨にもクエスト開始を告げるアラームが一回だけ音がなった。  船上は外側から見えてた以上に荒れ果てていた。使用済みの武器であろうか。渇いた血痕の辺りに無数に散らばっている。だが、相反して亡骸(なきがら)は一体も確認できなかった。  普通、闘いに敗れ息絶えた者は骨を残すのが一般的だ。 「無いね……死体」 「そうね、も、もしかしたら、亡くなって街まで強制送還されたんじゃない?!だから死体が無いんだよ、きっと」  一旦はリコの発言を聞いて空気が弛んだ。しかし、すぐに違うと認識し落ち込む二人。  プレイヤーがゲームオーバーになれば、所持している武器などは持ち主の元に帰る設定である。  交渉により賭けていた武器を取られるケースや、強奪(スナッチ)された場合は所有者の変更も考えられなくはないが、それでも少数派である。  では、多数派はどんなケースであろうか。    答えは簡単である。ここで闘ったNPCかモンスターが『死者』として辺りを移動していると言うことだ。  「だだだ大丈夫。私達にはテローゼちゃんがいるから」  「……そっか!!」  テローゼが側にいれば、モンスターとの休戦協定が結べる事が可能。交渉せずとも襲ってはこない為、リコ側から攻撃しない限りに置いては、双方の不可侵条約の下生存することはできる。  できるはず。  できるはずだった……  さっきまでは。  「あれ、ちょっと待って。テローゼちゃんが居ないよ?」  さっきまでリコ達の側にいたテローゼであったが今は姿が見えない。もちろんゴースト系であるため、消えたように見えるタイミングもあるかもしれないが、今は存在しないかのように静かである。  慌ててクエスト内容を確認するリコ。現状況の記載を何度も読み返す。 「いない」 「え?いないって……もしかして」 「うん。テローゼちゃんがクエストに参加していない……」  リコの目に飛び込んだ『2』の数字。これは現在のクエスト参加者の数字を指している。『3』ではない。いくら確認しても『2』なのである。 「私とソネルちゃんだけ……」  まさかの案内役兼ゴースト避けの御守り代わりとして君臨していたテローゼは、クエストに参加させるなり『自分の役割は果たせた』と満足したのか、ライの元へ先に戻ったみたいである。    状況がわかるとリコはすぐに武器を手に持った。まだ敵と対峙しているわけではないが、相手はゴースト系。壁をすり抜けて来るため、いつ遭遇するかわからない。  ソネルは武器を持たないジョブであるが、いつでも発動できるように身構えている。  リコが確認したところ、【スキルクエスト:難攻不落】の達成条件はスキル伝授者と遭遇、及び伝授 とだけ記載していた。通常であれば、BOSSの討伐や、秘宝の発見などが達成条件に上げられることが多いが、今回は少し違っている。  甲板を見渡す二人であったが、特に変化はなかった。  無言で頷く二人。  前方に見えている船内へ通じる扉をゆっくり開け、中へ潜入したのであった。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1041人が本棚に入れています
本棚に追加