第33話 リコ 欲しがりにつき

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 拡げられた航海図の周りにコーヒーカップが1つ。室内にはJAZZが流れており、所々に観葉植物さえ備え付けられていた。甲板に比べゆっくりとした時が流れている。  リコとソネルは甲板から続いていた階段を下りるなり、顔だけ船内を覗いていた。  異常な程落ち着いた船内の為、二人は逆に警戒心を解けずにいる。  まるで、ついさっきまで船内には沢山のクルーと、彼らを率いている船長が今後の航海について談笑しながら打ち合わせをしていたかのような構図。だが、船内にいた者全てが神隠しにあったかのように存在しない。  生活感のある船内は逆に異常さを増していた。  何かの合図で隠れていたゴースト系モンスターが大量に現れそうな雰囲気しか漂っていない。 「静か過ぎるね。逆にいますって言っているようなものじゃない」  物陰に隠れながらゆっくりと奥へと進むが、これといってモンスターに遭遇するといった場面が訪れることはなかった。 「奥に進んでから……いっぱい出てきたら困る」  少し眉を潜めながら怒るソネル。リコは物理的アタッカー、ソネルは非火力系魔法使い、ゴースト系のモンスターに対しては不利すぎるジョブである。ゾンビ系のモンスターであれば、まだ物理アタックは有効ではあるが、この狭い船内にでリコ独りで、複数の敵を一度に相手が務まるかが未知数。  むしろ、戦闘にならないほうが二人にとっても都合が良いのは確か。  それに、敵が現れないという現状は、この場を初めて訪れた二人にとっても好都合であった。  警戒しながらも探索を重ねる。静寂の中、JAZZの音が閑散さをより際立たせている。広い操舵室から続く廊下を抜け、途中にあった厨房も異常は確認できない。  続いて、締め切られた扉を1つずつ開けては確認作業を進める。が、これといって新しい発見には至らず、誰とも遭遇しなかった。  唯一、鍵のかけられた部屋の前にたどり着いた。 「船長室……怪しいね、お姉ちゃん……」 「えぇ。『いかにも』って場所ね。この場に入ったことが引き金になって、どばぁ~っとモンスターがポップしそうね。このゲームの運営側は単純な展開が多いもん」  少し辺りを確認しながら愚痴を溢す。クエストを作成しているのは確かに、このゲームの運営者だ。今まさに、リコとソネルの様子を運営側がモニタリングしているかもしれない。びっくりさせようとしている性悪なスタッフに対して批判したいのであろう。  リコとソネルは小さい声でカウントを合わせる。 3  2  1  GO !!  調ったリズムののち繰り出されたリコの斬撃により、扉の鍵を破壊することに成功し、船長室の室内へと入った。
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