第33話 リコ 欲しがりにつき

14/27
前へ
/345ページ
次へ
 無事に梯子を降り終えた二人。階層が変わり表示は【難破船地下1階】とだけ表示されただけ。このクエストはフロアマップを所持していなければ船内の構図が可視化されないギミックが施されていた。システムのアイコンをクリックしても、自分達が今どこにいるかがわからずにいた。  だが、地下1階という表記だけでも収穫だ。上のフロアとは明らかに違う階層に来ているという確かな証拠でもあるからだ。  周りを見渡す。上の階と構造が明らかに違っているのがみてわかった。上の階は部屋が多く、通路の幅にもゆとりがあった。上の階は、この船を動かすクルーが行き来しやすいように設計されているのだろう。  それとは対照的に、今きている階は圧倒的に狭い印象が拭いきれない。不必要な物は極力削いであり、内装の装飾も単調。居心地の悪ささえ感じる。  梯子降りてからは、通路が奥に伸びているのみの迷いようがない構造。これならフロアマップかなくても大丈夫だ。  二人がそう思っていたとき、  前方に佇む少女がじっと此方を眺めているのが視界に僅かに映った。  気づいた瞬間、生死を脅かすほどの鳥肌が全身を襲いはじめる。出逢ってはいけない『何か』に遭遇したと身体の細胞が報せてくれている。だが、拒否することも回避する術もない今、ただ口を開くことしかできなかった。  二人をじっと見つめる独りの少女。和柄の着物を着た大人しそうな子である。  敵かどうかもわからず、声を掛けて良いものかもわからない。ただ先程から眼はあっており、相手もこちら側を視ることを意識していた。距離にして4メートル。微妙な距離感が恐怖を増幅させている。  背けたいという感情とは裏腹に脳がそれを拒んでいるかのよう。無表情な少女の眼に吸い込まれそうな感覚に陥る二人。 「助けてあげて」  不意に謎の少女が話し始めた。 「え?」  思わず反応するリコ。彼女を確認するにライフゲージは存在しない。恐らくNPCなのだろうと推測したのか、妙に落ち着きを取り戻した。 「助けてあげて」  同じ言葉を繰り返してきた少女。「お名前なあに?どこから来たの?お姉ちゃん達は何を助けたらいいの?」と聞いてはみるが、少女からの反応はなかった。 「助けてあげて。……貴女も助かるから」  少女の言葉を聞いたとき、リコはその言葉の続きを聞くべきだと感じたのか焦り出す。しかし、彼女が言葉を言い切った瞬間、二人の視界は一瞬だけ白く発光し、また元の景色に戻った。  残念ながら、少女の姿はなく何事もなかったかのようにダンジョン潜入時のBGMが流れ始めた。 「お姉ちゃん……今のはいったい……」 「敵ではなさそうだったね。ライフゲージも無かったからNPC……だとは思うんだけどね」  リコはそう言い、怖がるソネルを落ち着かせた。だが、リコは気づいていた。NPCであれば、キャラネームが表示されたり、名前の近くにNPCと表記してあったり、いくつかの確認方法が存在する。  一瞬だったとはいえ、NPCと断言できる要素は存在しなかった。まるで本当の幽霊のように確認する術がなかったのだ。 「助けてあげて。……貴女も助かるから」  彼女は二人に何を伝えたかったのか。意図はわからないが、それでも『忘れてはいけない何か』だと感じた二人はそれ以上の詮索をせず、引き続き奥を目指した。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1041人が本棚に入れています
本棚に追加