第33話 リコ 欲しがりにつき

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「も、戻る?さっきの部屋に?鍵以外何も無かったよ?」  確かに船長室には帽子の裏に隠されてた鍵以外目ぼしい物はこれといってなかった。しかし、今所持している鍵のみ。仮にこの鍵が目の前にある牢の鍵だったとして、開けてしまえば、中にいるブーラスがこちらに襲いかかってくるだろう。  リコは悩んでいる。先程抱いた違和感にも。なぜ、ブーラスのような強敵が牢屋の中にいるのだろうか。 今一度思い出す。【スキルクエスト:難攻不落】の達成条件はスキル伝授者と遭遇、及び伝授。強敵の討伐という表記は一切ないことに。無理に闘う必要はない。 「ううん、さっきの船長室。まだ何かあるとおもうの……イオちゃんと初めて闘った時と同じ気持ち……自分の気持ちを信じてみたいの」  リコは思い出した。ソネルと初めてクエストに参加したとき、イオマンテが出現したときも同じ状況。ソネルが『留まりたい』という選択肢をライとリコが尊重したことで新しい世界が拡がったこと。  怖がりなソネルであるが、それでもなお逃げずに、気になったことに果敢に挑戦しようとしている。そんな彼女の姿にリコは笑みを浮かべた。 「じゃあ、ソネルちゃんの意見に乗りかかってみようかな。元々テローゼちゃんの提案に乗りかかって、来てみたら変な船に乗せられたし。私今回は乗ってばっかり」  リコも決断した。  地上階にモンスターがいるという通知を受け、一度探索した所であっても、ソネルが感じている『次への熱量』を育みたいと、そう感じたのであろう。 「大丈夫……乗り物酔いしても、ヒール系魔法は確率で発動に成功するから……」  ソネルも少し冗談を交えてリコの笑いを誘った。    現在、二人の認識阻害率は37%~39%辺りと通常より低い位置で推移している。モンスターの発生とあわせて、この船の状況も変化しており、高確率で敵に発見されやすくなっている。  「う~ん。低すぎるな~」  そう呟き、リコは装備していた双剣を解除し納刀した。その効果により二人の認識阻害率が61%~62%まで上昇した。 「うん。これでまだ何とか探索できる数値まで回復したね。よし、じゃあ行こうか、ソネルちゃん」  武器を持たない二刀流バーサーカー。それでも率先してソネルの先頭にたち、船長室まで案内しようとしていた。  敵はゴースト系の可能性は高い。その場合打撃系は無意味かもしれない。しかし、武器を持っていると持っていないでは、本人が感じる安心感に差が出てしまう。装備し直せばいいだけなのだが、それにしても『無防備』の状態は精神的にも負担がかかる。 「ありがとう……お姉ちゃん」  聞こえるか聞こえないかわからない微妙な声量。リコは返答はしなかったが、表情はとても晴れやかであった。
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