第33話 リコ 欲しがりにつき

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(4) 「あのゴースト2匹と、壁に姿を隠しているゴーストの計3匹の視線が外れるタイミングが今から5秒後に訪れるから、その隙にソネルちゃんだけ先に行って」  リコの指示に素直に従うソネル。無事に船長室内へと移動に成功した。ソネルのうしろ髪が室内に入った瞬間に、2匹のゴースト系モンスターの視線が開けっ放しの扉へと向けられた。が、ソネルに気づくことなく、また廊下を漂い始めている。  ソネルの移動が完了した。しかし、ソネルは不安そうな表情を浮かべている。何故なら、リコが導きだしたタイミングはこれ以上ない絶好な機会であり、今後訪れることがないのである。  ソネルは事前に治癒師(ヒーラー)の技である視力強化魔法をリコにかけていたのだ。だが、残念ながら本職ではない魔法の為、発動に成功しても効果は長続きはしなかった。  リコは強化された視力を駆使し、船長室までの間のゴーストの場所を確認しては動きを予測し、遭遇しないタイミングでここまでやって来れたのだ。  ソネルの魔法が切れた今、リコとソネルは懸念していた。まだ距離はあるものの、リコの背後からゆっくりと漂いながら近づいてきている新たなゴーストを確認しているからだ。  これにより計4匹のゴーストに気づかれることなく船長室まで移動しなければならない。元の視力に戻った今、やや変則的なアルゴリズムで動いていた壁に隠れているゴーストに対し、ベストなタイミングで動き出すのは至難の技である。 「お姉ちゃん……」  心配そうに見つめるソネル。リコに気づく可能性がある4匹のゴーストは、BOSS級まではいかないが、恐らく中BOSS程度のライフゲージは持ち合わせている。戦いとなれば、回復魔法をゴーストに浴びせ、減少すればまだ応戦できるかもしれない。  だがここは船内。限られた空間の中で、発動が不確かな魔法一点で凌げるとは到底思えない。それは二人が一番理解している点だろう。  するとリコは双剣のうちの1つを取り出した。闘うのかと思ったソネルは魔法陣を創ろうとしたが、リコは静止する合図を送った。 「お姉ちゃん……何をする気なんだろう」  リコはタイミングをはかった。そして武器を40cm程上にポンッと上げた。その瞬間、武器から離れ、姿勢を極端に低くしたまま壁沿いを駆け抜けた。 「まさか……」  重力を常に受けている武器はベクトルを変える。向かうは地面へ。段々落下速度を上げながら。そして地面に触れた瞬間、必ず起きる現象がある。 カンカラカン。  音を発した瞬間、ゴーストは音の方を注視した。壁に隠れていたゴーストまでも。  そんな状況下でリコはゴーストの視界の僅か外を低い姿勢で移動していたのだ。  敵の規則性がそれぞれ違うのであれば、合わせればいい。武器を一時的に手放してでも注意を『音』に引き付けた、リコの作戦が勝った瞬間でもあった。 「お待たせ、ソネルちゃん」 「お姉ちゃん……凄い。ライさんみたい」 「あははは。院長ならどうするかなって考えたら、今の作戦を思い浮かんだの」
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