第33話 リコ 欲しがりにつき

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 ライフゲージは13本表示されている。追加効果として、魔法無効化、打撃半減化も備わっている。永続効果の為、表示されている文字の隣に鍵のマークが施されていた。  今まで出逢ったモンスターの中では最強の1角なのは間違いない。難攻不落のBOSSが同じ檻の中に居合わせている。 「お姉ちゃん……」  震えるソネル。だが、リコからの指示も無しに勝手に魔法を詠唱しようとはしなかった。恐怖に心が完全に支配されぬよう耐えている。  人は見えない物に畏怖の念を抱く生き物である。物理的に蝕まれるよりも、精神的や体内での被害に対し実質的な被害以上の損害を発生してしまう。  目に見えないものは、事前に予防することが出来ず、唯々受け身になってしまいがちとなる。  ブーラスの情報は他者が圧倒するぐらいの内容であった。  ブーラスは二人へと接近する。何かに(すが)ろうとしているのだろうか。手を前につき出しながらやってきた。  2人は間一髪のところで回避に成功。ブーラスが移動した際の軌跡に毒の沼が発生した。 「まずいね。このまま檻の中が毒地だらけになったら、ライフゲージがゼロになってしまう」  長期戦は浮遊スキルのない2人にとって敗北へのカウントダウンにすぎない。  が、ブーラスの初手を初見で回避に成功した2人に必要以上の焦りは見せていない。狭い室内。逃げ場のない限られた空間でもなお取り乱す真似はしなかった。  渇いた砂漠で美しく咲く花は一握り。  戦場で咲く華も同様である。  命をかけて時を刻む2人に策は1つ。 【CAUTION】ブーラスが襲いかかってきました【CAUTION】  見馴れない表示が戦場を駆ける華の視界に映る。  詳細▼と表示された箇所を選択し、ブーラスに注意しつつも、文字を眼で追うリコ。そこには辛辣な文字が並べられていた。 『レベル差が甚大です。一撃で即死します』  初めてでる注意事項に笑うしかない2人。鍛練を積み、他のギルドの第一線で活躍している者と引けをとらない力をつけていても、闘う前から敗北の烙印を押されたような気持ちに複雑な表情が滲み出る。 「私たち……弱いのかな」 「ソネルちゃん。ゲームの世界は宇宙のように無限に拡がっているの。毎日、毎時間、毎秒ごとに。弱ければ強くなればいいだけのこと。だから私たちはこの船に乗ったんだよ?」  ブーラスは呻き声をあげながら再度の突進を繰り返す。だが、二人は回避に留まり、まだ武器や魔法での応戦を行わない。  無言の中、ソネルはリコの合図を確認する。敵に見えないように腰の位置でハンドサインを出していたのだ。  親指、人差し指、中指の綺麗な指が伸びている。  (次の突進のとき、作戦試すよ?)  ブーラスは一番近くにいるリコに対し突進を行った。相変わらずの速さであったが、先程の速度と変わらなかった。  いくら移動速度が早くても、一度経験した者には耐性……つまり、眼が慣れていた。眼が慣れればわかる。 『どこまで相手を引き付けることが可能なのか』を。  寸前だった。  一歩間違えればブーラスの魔の手がリコの首を掴みかねないギリギリのラインでリコは回避した。そして、背後から現れたソネル。  手には船長室に掛けられていた帽子が。  ソネルも回避しつつ、帽子をブーラスの頭に優しく被せた。 「あなたの……帽子?」
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