第33話 リコ 欲しがりにつき

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 ブーラスの動きが極端に遅くなり、ゆっくりと手を上げだした。到達地点は被せられた帽子。確かめるように何度も触る。感触を確めた。 「ボ……ウ……シ。ワ…タ…シ…ノ」  気づきは確信へと移った瞬間、【招かざる屍体 ブーラス】という文字1つひとつが動き出す。 「そう。名前を偽っては駄目。私が許しません」  リコはここで武器を装備した。恐れをなした文字は逃げ出すように一目散に散らばった。  ブーラスという名目を失ったことで、ブーラスの身体に変化が生じる。見るに耐えないグロテスクな見た目も偽りだったため、ガラスが剥がれ落ちるように崩れだし、中から船乗りの格好の人間が現れた。 「ここは……地下牢のようだね。どうやら私は騙され、この中に永く閉じ込められていたようだ。そして、助けてくれたのは、貴女達2人という理解でよろしいかな?」  ブロンズの美しい髪、そして燃えるような紅い瞳が印象的な女性がリコ達に声をかける。 「…………んえ?あ、はい。そうです!」  醜い容姿のブーラスの中から雄々しくも美人な女性が現れた為、見惚れているがあまり、反応にやや遅れたリコ。 「堅くなるのは止してくれ。私の船では性別、生まれ関係なく、気さくに、そしてありのままに過ごすことを第一に置いている。貴女のような客人にも、私、シャーロッテの船にいる間は従ってもらうよ?」  改めて表示された【女船長 シャーロッテ】の文字が。  彼女の航海日誌に記された記録は事実だったことを知らされる2人。偽る事に長けていたモンスターが、彼女の存在そのものを偽り、シャーロッテ自身も、偽りの姿が本当の姿なのだと誤認する呪いを受けてしまっていたようだ。  襲撃に成功したモンスター達はシャーロッテの船を乗っ取る為、他のクルーをも騙し、船から降ろさせたようだ。  だが、襲撃したモンスター達に誤算が生じたのだ。船長であるシャーロッテがあまりにも強すぎて、排除出来ずにいたようだ。なんとか牢に閉じ込めておくので精一杯で、同じ地下のフロアにいるのも敵わないと感じていたのかもしれない。  自分を取り戻したシャーロッテ。「恩人・客人を迎える場に相応しくない。場所を替えさせてもらうよ?」と告げ、2人を見つめた瞬間、空間が様変わりした。航海日誌に机に椅子。気がつけば見覚えのある部屋にワープしていた。 「え?嘘……」  信じられない出来事に言葉を失う2人。だが、シャーロッテの航海日誌には確かに記されていた。 『一時的に湖へと船ごと移動させ』と。  彼女のオリジナルスキル『転移』により物理的に自分を含め対象物を移動させたのだ。  次はシャーロッテだけが消えたかと思うと、綺麗な装飾が特徴的なコーヒーカップ一式を持って現れた。 「いや、遅くなってすまない。君たち以外の招かざる客共を排除するのに少々時間がかかってしまたね」  シャーロッテは笑いながらそう話したが、実際には数十秒もかかっていないレベル。移動時間がない為、余計に早く感じる2人であった。 「さて、恩人達に問おうじゃないか。私の船に来てくれた理由を」  このとき、シャーロッテは圧倒的な覇気を纏いながら問うていたのだ。2人も見方を変えれば招かざる客。ゴースト同様この船を乗っ取りに来たのであれば全力で排除する措置を取るために。 「貴女みたいな『強者』を捜していたの」 「ほぅ。それだけで私を助けてくれたのかい?」 「ううん。違うわ。貴女のその移動スキル、私に伝授してくれないかしら?」
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