第33話 リコ 欲しがりにつき

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「伝授?!あっはははは」  眼を丸くして大笑いをするシャーロッテ。予想していた内容と違っていたようで、彼女から醸し出ていた威圧的なオーラは霧のように何処かへ消え去っていってしまった。 「むっ?!私真剣だよ?貴女のその技ほしいもん」  頬を膨らませながら怒り口調でいるリコ。その様子とは対照的にお腹を抱える船長が1人。 「すまない。失礼なことをしたね、許しておくれ。それに『すまない』。私の移動術『虎哮(ここう)』は他人に伝授出来るような代物ではないのだよ。わかっておくれ」 「むぅ!わからない!!速いの格好いいもん!さっきだって一瞬で移動してお化け追っ払ったんでしょ?!」  速度に拘りをみせたリコ。剣士の中でもトップクラスの移動速度を誇る彼女にとってシャーロッテの技は藁にも縋る気持ちなのだろう。  だが、そんなリコの想いをシャーロッテは果たせそうになかった。 「ここで、君の……えっと」 「ん?あ、私はリコよ。この子はソネルちゃん」 「ご紹介ありがとうね。さて、剣士リコ君。ここで、君の間違いを正しておくとしよう。私の『虎哮』はスピードの強弱による移動ではない。①空間を短縮することと②移動したことを共有し強要すること③時間軸を遡らないこと……他にもいろいろあるけれど、とにかく複数の事象の上で成り立っている。わかるかい?」 「う~ん。良くわからないことはわかったかなぁ」 「『虎哮』は教えられないし、伝授のしようがない。ただ、他の技でよければ幾つか策はある」 「えっ?!本当に?!」 「あぁ、船乗りは冗談は言っても嘘は吐かないさ。虎哮と良く似ている技で良ければ伝授できなくもないさ。とりあえず、君の動きを見せてくれないかい? 勿論、命をかけて……ね?」    風向きがかわった。  気持ちを動かされた瞬間でもあった。  彼女と出逢えた事を喜びと感じるのか。それとも悔やむのか。  航海の先の後悔は揺れ動く荒波と共に複雑に折り重ね、弾ける泡は白くなっては消えていく。  十分過ぎるのかもしれない。  命を賭けの材料とし、先に進む1歩を踏み出すには。 『最期』  まさに、ラストバトルと思えても不思議ではないメロディーがリコの全身を奮い立たせる。  きっかけを作ったのはシャーロッテの一言。相手を威圧するでもなく、かと言って寄り添うでもない。微妙な笑みを含んだ言葉選びに、彼女の強さが滲み出ていた。 『彼女はホンモノだ』  伝授してほしいと嘆願した相手としてリコの眼に狂いはなかった。  ただ単に剣舞を披露しろと命じられただけなのに、これから命をかけた生き死にの戦に出向くかのよう。  命をかけて舞う姿を見せる相手として不足なし。  優しく目蓋を閉じた。風を斬るのではなく、風を撫でるように。些細な流れを壊すことなく身を任せる。 「お姉ちゃん……きれい」  誰よりも身近でリコの剣を見てきたソネルでさえ感動を抱く。優雅さをも兼ね備えたリコの二刀流は、つがいの蝶が遊んでいるかのように息を合わす。  だが、シャーロッテの眼には違うように映っていた。 「成る程……わかった。リコ君、君の剣舞は偽りを感じる。雑味が多い。本職じゃないでしょ?」  シャーロッテの意外すぎる言葉が二刀流バーサーカーのリコに投げ掛けられた。 「……シャーロッテさんなら見抜かれちゃうかもって思ったけどやっぱりね」  リコはえへへと笑う。 「リコ君。君の二刀流は見事だ。だが『斬る』動作にぎこちなさを覚えた。本当は斬るよりも違う動作の方が得意なんでしょ?」
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