第33話 リコ 欲しがりにつき

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 真っ直ぐに見つめる瞳の先に綺麗な水晶体。離れていてもお互いを交信しあう視線に隔たりはない。 「シャーロッテさん。私はね、違う世界では髪を切る仕事をやってるの。ハサミっていう道具を使って髪を切るジョブなの。こんな風にチョキチョキって感じで」  リコは指を用いて髪を斬る動作をしてみせた。シャーロッテもその様子を興味津々で見つめる。 「髪を切る?私の知らない行為だ。だが、君の言葉に嘘や偽りを感じない。君にとってはそれが真実なのだろう」  頷き理解をしようとする姿にリコにも自然と笑顔が戻る。 「するとどうだろう。リコ君のハサミの動作を見るに、斬るより『挟む』という動作のようだ。君の斬撃も『挟め』ばいいのでは?」  リコやソネルにとって理解の範囲外どころか排他的経済水域の外側ぐらいの出来事に思えたのだろう。クエスチョンマークがシャボン玉のようにポコポコと大量にポップしていた。 「?んえ?は、挟む?!二つの刃で蟹さんみたいに『チョキン』ってするって事?」 「いやいや、クラブ系モンスターのような手を意識されては困るよ。両手で1つの物を挟むのは二刀流の意味がないし効率も悪い」 「じゃあ、何で挟むの?」  リコの質問に対しシャーロッテは不適な笑みを浮かべる。 「普通……わね。でも、どこにでもあるじゃない。ほらここにも」  そう言って、腕をくるくる回すジェスチャーをしている船長。 「も、もしかして……」 「察しがいいね。そう、空気と挟めばいい」  そんなの無理と言わんばかりに笑うリコ。だが、シャーロッテは自信ありげに「武器貸しな」と催促をする。リコは疑いながらも剣を1本渡す。  呼吸を調えるシャーロッテ。  その場で立ち止まり、ソネルに向かって『攻撃してみて』と指で合図している。ソネルは本物の玲瓏を召還。 「へぇ……ソネル君は、見た目と違って激しい攻撃するんだね。嫌いじゃないな、そういう姿勢」  BOSS級の龍の王をみても全く動じない女船長。渡された短剣1本を軽く握りしめ、玲瓏が襲ってくる瞬間まで自然体の状態でいた。  時が充ちた。  シャーロッテは遊ぶかのように柔らかく剣を一回振ってみせた。まだ玲瓏との距離は僅かにある。玲瓏に当たることなく空を斬るだけの動作になっていた。  だが、玲瓏の首から液体がじわりじわりと溢れ出した。  時間が経つにつれ、玲瓏は何も話さなくなった。気がつけば玲瓏のライフゲージは0、つまり死亡を意味し、玲瓏は砕け散りました。  一撃で。それも渡された短剣1本で。 「見えないだけで、存在しないというわけではない。空気は存在しているし絶え間なく動いている。風が吹けば圧を感じるだろ? 空気の刃が存在し、信じ、心を委ねて挟もうと意識すればできる。さっき2番目に言った『共有し強要すること』に近いテクニックだ」
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