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単撃だった。剣技のモーションとしては、ただ単に一振しただけ。コマンドで言えば、弱パンチボタンを1回押しただけの単純な動作に過ぎない。
シャーロッテ。
彼女はあっさりと実演してみせた。
「はい、じゃあやってみて」
ペットボトルをひょいっと渡すかのように、借りていた武器をリコに返した。リコは思わず、返された武器を必要異常に点検した。
「……おかしい。攻撃力が増したバフ効果も付与されている形跡もない。『おかしい』点が1個もない。私が扱っているときと武器の攻撃力が変わっていない」
探しても種も仕掛けもない。リコが使用している時と変わらなかった。
「だから、武器壊してないでしょ?私は名刀を破壊するほど堕ちてないさ」
「いきなり、やれって言われても……ふぁえ!?」
躊躇しているリコの肩を急に掴まえ、向き合う形になった2人。お互いの唇が触れるか触れないかのギリギリの距離にリコは逆上せた。
「へっ……あ、あの、えっと、その……」
ねっとりと絡み合う脚。両方の肩を捕まれているので手も動かせずにいる。一瞬にして動きを封じられたリコは、近すぎるシャーロッテの華のような可憐な匂いに溺れていた。
魅力は距離に比例して伝わりやすくなる。
だが、シャーロッテは唇を奪うために近づいたのではなく、リコの眼を覗くために近づいていた。
「リコ君」
「んへ、へぇっと……」
「君は、他に長けた技を隠している……ね?私に隠し事なんて良くないんじゃない?」
「ひやひや、ほんなほほはいへす」
意識朦朧とするリコ。
「いや、君に上手く騙されかけたよ。君は髪を挟む意外に長けている技があるはず……」
シャーロッテは掴んでいた肩をゆっくり解放する。リコはシャーロッテの問いかけに我に返った。
「どうして、それを……」
「少し君を覗かせてもらったよ。どうやら君は、その技を好いてはいないようだね。だから『代わりに』髪を整える、えっと、ハサミだっけ?それを使う技に置き換えて過ごしている。違うかい?」
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