第33話 リコ 欲しがりにつき

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 シャーロッテの言葉に珍しく黙り込むリコ。 「知られたくなかったかい?だが、リコ君自身が自分と向き合わなければ何も生まれないし何も始まらないさ」 「シャーロッテさん……」 「今は本来の君を阻害するモノはない筈だ。解放してごらん、自分を。君の本当の『挟む』を見せてくれないかい?」  シャーロッテの言葉に背中を押されたリコはゆっくりと歩きだし、少し距離を取った。  これからもう一度剣舞を視てもらう為に。  『挟む』という行為。    「不発でも、笑わないでね?」  リコは少しだけ笑ったあと、精神統一し武器を構えた。  その瞬間だった。  まるで雷に打たれたかのような動作を魅せたかと思えば、明らかに先程までの表情とは違うリコの姿があった。  無表情。リコには到底似つかわしくない表情。だが、脱力しているわけではない。  全ての自然との調和をはかるかのように優しい眼をしている。  その姿にシャーロッテは興奮した。 「いいじゃないか。やっと本来のリコ君に逢えたようだね?では私が相手をしよう」  シャーロッテは腰に忍ばしていたダガーを取り出した。そして姿を消す。  虎哮(ここう)だ。  一瞬にして間合いを詰めたシャーロッテ。既に攻撃のモーションでリコに近づいていた。  ソネルが気づいたころには攻撃モーションが始まろうとしているシャーロッテの姿と、まだ構えたままのリコの姿があった。 (危ないっ……)  ソネルの心から言葉が漏れそうになった時、リコは優しく一振でシャーロッテの一撃を完全に受け止めた。  危機感を感じたシャーロッテは『虎哮(ここう)』でその場を離れようと発動したが、それでもまだ目の前にリコの姿があった。 『虎哮(ここう)』で移動し、リコとの距離は取れている筈なのに。  拭い去りきれない現実がシャーロッテの心を揺さぶる。虎哮(ここう)は最速の移動術。速度の強弱ではなく、空間の短縮による移動の為、唯一無二、頂点に君臨する技であることは、産みの親である本人が一番理解している。  だからこそ、目の前にリコの姿があってはならないのだ。空間の短縮より速い移動術があっていい筈がない。  否定の念が渦を巻いていたときに、淡白い仮定が彼女の脳内の色を変えた。 (無い……わけではない)  頂点である王を揺るがす相手は、対になる王であるように、  自分を壊す相手は自分自身であるように、  虎哮(ここう)に対抗するのは虎哮(ここう)でしか考えられない。  気づいたとき、全身の毛穴が震えるように反応している。  驚き、不安、危機感、武者震い。  混ざり合うことを覚えた感情は、悔しいことに悦びへと変化していることを知る。 「君の全てを知りたくなったよ」  笑みを浮かべるすぐ側には、虎哮(ここう)で移動に成功したリコの姿。トランス状態なのか、無表情のまま剣技へと移っていた。  自然界の生を摘むのではなく、活ける生の熱量を表現する為の1手。  全てはここから始まり、ここで終わりを告げる。  リコの斬撃は確実にシャーロッテを捉えようとしていた。が、咄嗟に重ねた虎哮(ここう)によりリコの攻撃をもろに喰らうことはなかった。  安堵の表情を浮かべた瞬間、被っていた帽子の(つば)に切り込みが入っていることに気がついた。 「恐れ入ったよ……私の移動術である『虎哮(ここう)』を修得しただけでなく、本来の君の攻撃がここまで美しいだなんて」  シャーロッテは「やれやれ」といった表情を浮かべながら頷いた。 【スキル:虎哮(ここう)を体得しました】  
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