第34話 領域外フリーフィールド

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「……もう1度聞こうか?」  微かに聞こえた。1度は聞き流そうと試みたが、気に食わない内容は俺の耳から侵入し蔓延(はびこ)った。癖の悪い冗談だとあしらおうとも思ったが、秋山の言葉だ。本当の事なんだと諦める方が賢明なのだと悟ってしまう自分が悔しい。 「同じ報告になりますが、よろしいですか?それに、ハイカカオ君は乗り気のようですが?」  秋山の悪い癖だ。極秘ミッションのケースにおいて、ハイカカオとセットで頼みこんで来やがる。  今回の秋山からの提案はこうだ。 『新しいフリーフィールドに興味ないかい?』  これだけであった。第1回目の禁則地での調査結果を秋山に知らせたあと国としても密かに大きな動きがあったらしい。  ゼーフィア発端の領域外の世界『禁則地』。運営者側も現在頭を悩ませているこの事件はまだ解決に至っていない。その為もあり、秋山が必要以上に俺にコンタクトを求めてくるようになってきた。今回、ハイカカオまで捲き込むだなんて面倒事が更に輪をかけて、もはや二重詠唱の魔方陣のように複雑になっている。 「御託(ごたく)は良いから詳細をよこせ。回りくどい奴め」  ハイカカオのいう通り。秋山は本当に疲れる存在だ。  ゼーフィアの禁則地事件はいわばゲーム内のバグから生んだ世界。政府からすればハッキングの経験のあるハイカカオに全面協力を仰ぎたいところでもあるが、彼を信用しきれない部分がどこかで二の足を踏む要因になっているのであろう。  しかし、秋山の事だ。  俺やハイカカオを上手く利用してやろうという魂胆は必ずある筈だ。  それから俺たちはもう1度秋山の話に耳を傾けた。  俺やリコ、ソネルを初め、いつもログインしているゲームの運営会社の母体は日本にある。全世界からログインできるとはいえ、あまりの人気ぶりにサーバーが落ちることも増えていた。その為、海外から大量にログインするエリア事に、それぞれの運営母体を持つ方針に切り替わったのが先日。  アメリカ、ヨーロッパ、中国とそれぞれ独立した運営母体が完成し、そのエリアからログインするプレイヤーはそれぞれでゲームを楽しんでいるという状況である。  その為、オリジナルのイベントや大会がそれぞれに行われており、連日お祭り騒ぎである。  モンスターの強さや、ステータスのパワーバランスなどは差が出ないように大元である日本の運営会社がしっかりと手綱を握っている。 「データの転移(コンバート)の許可は降りました。2人にはこれからアメリカのフリーフィールド等を調査してもらいたい」
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