第34話 領域外フリーフィールド

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(2) 「がははは。弱い酒呑んでるんじゃねーよ」 「っるせー。お前が借りた金返さねえからだろ?」  お世辞にもお洒落とはほど遠い格好のゴロつき2人が少ない酒を取り合っては豪快に呑んでいた。  日本が運営しているフリーフィールドとは雰囲気が違いすぎていた。  まず目についたのは散乱したゴミの量。街中では酒が入っていたであろう空き瓶にバラバラに砕かれた木材や武器の廃材などが至るところに落ちていた。  どれも『無価値』とまではいかないが拾う価値もないガラクタばかり。また、スナッチのように盗まれたわけではなく、プレイヤー自らが不法投棄したため、それぞれのゴミにはカウントダウンの表示がなされていた。これは、表示されている時間内であればアイテムや物として拾う事が可能であるが、この時間を過ぎると自動的に消滅する。  その為、アイテムストレージを圧迫していたり、不要になった物は所構わず放棄しているということだ。  これが日本の場合で置き換えると、このような状況を迎えることはないだろう。  拾い、リメイクするものや素材として売買を行う者が現れては活用するだろう。そうでなくとも、しっかりと【このアイテムを削除しますか?】との問いまで進み、【はい】の項目を選ぶだろう。 「おい、治癒屋(ちゆや)」  冷めた口調で俺を呼ぶ標識屋。最近俺の事を「治癒屋」と呼ぶようになった。特にどう呼ばれようと気にはしたことがなかったが、治癒師(ヒーラー)という単純な呼び方から脱せたようで少しだけ達成感が生まれた。  少しだけな。 「どうした?もう日本が恋しいか?」 「前に言っただろ?日本なんざ滅んだ方がましだと」  険しい表情を崩さず獲物を睨むかのように見つめてくるハイカカオ。奴の顔を見る度に思い知らされる。  常に命を狙われていると  冷たい刃がいつも俺の喉を駆っ捌きたがっているかのようにさえ感じる。  不幸なことに、ここアメリカが運営しているフリーフィールドは日本とは治安そのものが違う。  『のどか』とはかけ離れた世界。  気を休めることができる安全な場所などなく、殺気で満ちている。  彼らは紛争、闘いを好む人種であり、安置など設定されてはいない。  つまり、  本来安全が保証されていいはずの街中でも闘えばライフゲージが減り、枯渇すればゲームオーバーとなる。  無言のまま俺たちに近づいてくる2人組の姿。第一村人発見。これからこの街の事について調査したいところではあるのだが、握りしめたハンドアックスを振り上げながらこちらにやってくる様子を見るに、仲良くお喋り……と言ったことは無理であろう。  ハイカカオも口だけ笑い2人に近づく。 「見ねえ顔だな?お前等新参者(ヌーブ)だろ?げへへ。じゃあ、俺達がいろいろレクチャーしてやるよ。まずは持っている金を相手に渡すやり方からだな」 「あぁ、頼む」  柄の悪い2人組に対しハイカカオは快く応対した。 「あれ?身体が動か……ねぇ……」  2人組の足が止まる。側には一方通行の標識が。慌てる2人に対して、ハイカカオは何も持っていない手を彼等に付きだし拡げた。 「教えてくれるんだろ?金の渡し方」  ハイカカオは2人組から金銭を巻き上げた。
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