第34話 領域外フリーフィールド

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「不慣れな場所は面倒だな」  大きな溜め息とともに疲れきった台詞が運ばれてきた。確かに、ここまで劣悪な環境下では『何か新しいモノを発見してみよう』という前向きな意気込みさえ沸いてこない。ただ作業的に行い、完了すればすぐさまログアウトしたい気分ではある。  秋山からの注意事項。  アメリカの地のフリーフィールドで獲た経験値やアイテムは日本でも引き継がれる。ただ、お金等は現地でしか調達できない。  との事であった。少しくらいは政府側で用意してくれるだろうと期待したが『ゲーム内の通貨は足がつきやすいから勘弁しておくれ』とのこと。  理由を言われては納得するしか仕方ないにしても、事前にある程度の情報は欲しいところ。これから俺たちは右に進めば良いのか、左に進めば良いのかさえわからない。 「まずは、プレイヤーが集まる場所へ向かおう。こんな路地裏じゃあ『また絡んでください』って言っているようなものだからな」  室外機や、配管が剥き出しの路地裏を進んだ俺たちは、少し大通りに出てきた。だが、このゲームの世界での時刻は深夜。流石に徘徊している者も少なく、階段で項垂れている者や、妖艶な服装のプレイヤーが扉の前で客引きをしているくらい。 『プレイヤーが集まる場所』  通常であるならばクエストの依頼が集まる集会所に行けばいいのだが。日本とアメリカではその辺りの仕様が違いそうである。集会所は全プレイヤーが一目でわかるように工夫されており、マップすら所持していない新規参加者でさえ迷子にならずに行ける。  だが、この世界はどうやら違うようだ。  誰もが利用しそうな公共的建物がどこにも存在しない。 「君たち、もしかして『観光客』かい?どうしてこんな時間に通りをうろうろしているのかい?」  警察官のような警備服で全身を着飾った者が一人現れた。 「……。あぁ、『テリー』という案内役と逢う約束をしていたんだが」 「あぁ。案内役のテリーならバーで待っていたぞ?連れていってやるよ、こっちだ」  警察官のような男は俺達2人を先導してくれた。 (おい、ハイカカオ……) (今ので解っただろ?この男もさっきと同様で追い剥ぎの類いだ。俺様の嘘に乗ってきやがった。こいつらのアジトに行けば、この閑散とした通りより人はいるだろう。奴等から情報を聞き出すとしよう)  ハイカカオの強引な行動により、俺達は怪しい男の後ろについていく事になった。
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