第34話 領域外フリーフィールド

6/34
前へ
/345ページ
次へ
 怪しい男について行ってある意味正解だったのかもしれない。一見どうみても建物の中に入る為の扉にしか見えないが、開けると奥に隠し通路が存在していた。  初見では絶対に気づかない裏ルート。それに、建物の死角になっていて気づかない地下階段をも下る。しかし、また道が続いていた。街中を流れる川の水面ぎりぎり同じ高さの隠し通路。雨天時では水嵩が増し通れない仕様なのだろう。  この街は日本とは違って、冒険心を擽る。平和ボケしてしまった俺からすれば、こういうキナ臭いフィールドは嫌いではない。 「着いたぜ、兄弟」  案内役の男はとある入り口の前で止まった。店の入り口とは程遠い扉。ほぼ勝手口に等しいサイズである。テリーは中にいるぜとだけ言い、扉を開けてくれた。 「案内ご苦労。下がっていいぞ?」  ハイカカオは一言だけ告げた。 「いやいや、兄弟。最後まで見どけるさ」 「ふん、勝手にしろ。行くぞ、治癒屋」  それから俺達は中へ進んだ。歩く度に軋む音がする木製の床。赤黒い染みは溢れたワインなのか血痕なのかはわからない。だが、さっきまで先頭を歩いていた案内役の男が、店内に入るなり、俺達の背後をついてきた。  まるで俺達が引き返そうとするのを阻止するかのように。奥に案内したがっているかのように。  ハイカカオは先頭を歩く。景色が少しひらけてきて、バーカウンターやテーブルが見えた瞬間、ハイカカオの頭に向かって酒の瓶が飛んできた。 「ヘィ!カモン!!今夜の賭けは俺の独り勝ちのようだぜ」  投げられた酒だろう。恐らく、現れた部外者に誰が一番早く瓶を当てられるか賭けでもしていたのだろう。  ハイカカオの頭に瓶が当たり割れた。  が、ハイカカオは何もなかったかのように店内をゆっくりと見渡した。 「程よい広さに、木製の床材。プレイヤーが15匹くらいか。良いところじゃないか」 「ガハハ。こいつ、瓶を当てられたのに強がってやがる、ガハハハハ」  賭けに勝ち、大金を握りしめたまま近づいてきた男は上機嫌だった。稼いだ紙幣を使って、酒でずぶ濡れのハイカカオの頭を拭きだした。 「これで乾かしなよ、ボーイ。ママに怒られちゃうぜ?」  馬鹿にするようにハイカカオをいじる男。  だが、ハイカカオはここで初めて拒否をした。床に落ちていた瓶の欠片を使って男の首を切り裂く。血液に似た液体が吹き出る。 「いや、これからまた血で濡れるから大丈夫だ。気にするな」
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1041人が本棚に入れています
本棚に追加