第34話 領域外フリーフィールド

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 ハイカカオの行動はバーにいた者達からすれば予定外の事だったのだろう。誰も助けることが出来ずにライフゲージが枯渇するまで無言のまま俺達を凝視していた。 「アメリカか……良い国じゃないか」  ハイカカオの言葉を皮切りに次々と襲いかかる。ナイフを持った者、銃で命を狙う者、炎の弾を発動し、焼き殺そうと試みる者。  全てがハイカカオの命を奪おうと行動し、また全ての者が標識により制限を受け、躊躇している間に次々と殺害されていた。 「悪く思えよ?相手の力量を把握せずに仕掛けたお前等自身を」  【DEAD】の文字が怪しくも光る惨状。騒がしいかった店内も呼吸をするので精一杯の重傷者が数名だけ。一撃で殺されなかったのは流石だが、とても闘える状態ではない。 「お~お~観光客にやられたとの報告で来てみれば、ここも派手に殺られてるじゃねーか」  勝手口とは違い、正式な店の正面入口から恰幅の良い男がやってきた。MLBのチームロゴがあしらわれた帽子を被り、トップスに大きな十字架が特徴的な金属性の重たそうなネックレスをしている。 「ふん。お山の大将の登場のようだな。部下の躾くらいちゃんとやれよ」 「ボーイ。口を慎めよ?今日は俺の機嫌は良くないぞ?腕が少しは立つようだが……って、ランクAAの道路管理者と、ランクAの……治癒師(ヒーラー)かよ?!をいをい。こんな雑魚(フティリティー)ごときに俺が呼び出されるだなんて今日は最悪な日だぜ」  どうやら、この地ではプレイヤーのジョブとは別にアルファベットでランク付けもされている仕様のようだ。  確認すると、ハイカカオはAA、俺はAのようだ。転がっている敵で息がある者はランクCばかり。  太い葉巻を噛むように咥えながら「どうしたものかね」と悩むような仕草を見せる男。明らかに闘う意思のない男に対し、ハイカカオから仕掛ける。 「更に機嫌が悪くなるな」  標識を使い、一気に加速をしたハイカカオの本体は男の懐近くにあった。 「威勢が良いのは嫌いじゃないがな」  ハイカカオの一撃を、その大きな腕をクロスにしてまともに受けた。ハイカカオの打撃は決して弱くはない。鍛え抜かれた格闘家程の力は無くとも、標識による加速が重さとして加算されている。  だが、巨体はその場からい1センチも動くことなく受け止めた。 「ま、そんなところだなAA(ダブルーエー)ごときじゃあな」  奴等はカウンターでハイカカオの腹部を狙った。咄嗟に防御の姿勢を整えたが、全く意味を成さず痛恨の一撃が彼を襲う。店内の端まで吹き飛ばされ、ライフゲージも全体の8割を失った。 「自己紹介まだだったよな、俺はヘルナンデスだ。死ぬ前に名前くらい憶えてから落ちろよ?」  とどめを刺す為だろう。男はなおも攻撃の手を緩めようとしない。ぎりぎりのタイミングで俺はハイカカオの前にたった。 「治癒師なんざ、この国では不人気過ぎて誰も選ばねえ。戦場には不向きだぜ?」  ヘルナンデスの重い一撃が俺の腕へと伝わる。確かに、今までに無いくらいに圧を感じた。  だが、ライフゲージとしては『1』しか減っていない。 「おもしれぇじゃねえか。貴様……何者だ?」 「俺か?あんたも知っての通り、通りすがりの不人気ジョブのライだ。憶えなくていいぞ?」
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