第34話 領域外フリーフィールド

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 ヘルナンデスからの冷たい視線が局地的なスポットライトを浴びるかのように突き刺さる。他人事として(かわ)したい気持ちが先行しがちではあるが、首を突っ込んだのは俺の方だ。  包帯を巻く手を使用せずに素直に殴られていればそれで終わっていたのかもしれない。  ハイカカオを救助しようと試みたが、背を向けた俺に対し殺意を悟る。刻まれた悪寒に反応せずにはいられない。  俺は包帯を巻く腕を使い、再度ヘルナンデスの攻撃を受ける。ダメージ換算はやはり「1」の表示が。だが奴はそこで終ろうとはしなかった。  先程の攻撃より軽いと感じたことにもっと思考を巡らせるべきであったと後悔の念が頭に蔓延る。先程の初手は「本気」ではなく、俺がどう防ぐのかを見極める為の誘い玉だった。俺の隙を窺い、ハイカカオを襲ったときと同じモーションが目の前で行われている。  血走る眼が不気味に笑い、殺したいと願う微笑みが此方に向けられる。  これまで潜ってきた死の淵よりも濃い時間が流れようとしているのを肌で感じる。  即時詠唱のシールドを展開するがヘルナンデスの拳の勢いは全くと言っていい程弛む気配はない。だが、僅かな隙間を作ることには成功した。  今はこれだけで十分さ。  パリィをするには……な?  ズンセックに感謝したい。俺に生きる術を見せてくれていた事に。  傍で彼奴のオリジナル技を何度も目撃者出来た俺は本当に幸運な人間なのだと感じる。  勿論、俺なんかのド素人がズンセック並みに使いこなせるわけではない。  だが、猿真似だとしても、本家の真似事であれば、何も知らない素人の悪足掻きとは格が違う。 俺はヘルナンデスの太い手首をタイミング良く弾く。 「Shit(シッ)!!ムーブキャンセルだと?!」  無防備なヘルナンデスに対し、ファラオから受け継いだ拳が腹部を襲い始める。音速の一撃を叩き込まれた身体は俺達とは反対の方へ吹き飛び、木製の机を巻き込んでは倒れ込んだ。 「治癒屋……奴は俺の獲物。お前の新しい技能を試す場として譲った覚えはないぞ」  殴られたハイカカオも起き上がり、反撃の狼煙を瞳に宿していた。  心臓が動いているうちは、自分の信念のままに敵に対して背を向けたくないのであろう。  道路管理者ハイカカオ。  フティリティーと卑下されてきた歴史の中で、今でも輝きを喪わない、日本勢の最狂の一角。 「残念だが安心しろ。俺の一撃はライフは奪えない。治癒屋(ヒーラー)だからな」  俺の言葉通り、ヘルナンデスのライフゲージは何一つ変化ない。殴り飛ばされたのが以外だったのか、奴はゆっくりと立ち上がった。
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