第34話 領域外フリーフィールド

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「パリィ、即時詠唱、それに打撃弱体化……ランクAの方がおもしれぇじゃねーか」  首の音を2度鳴らしたあと、腕をぐるりと回して軽いストレッチを行うヘルナンデス。勿論、奴のライフゲージには傷1つない。加えて、スタミナゲージの減少は微々たる結果に終わった。  禁則地での一戦。ヘカテーに対しては一撃でスタミナキルを達成し、気絶させることで場は収束へと向かった。だが、今回は不殺での場を収める手だては無いようだ。 「おい。殴っておいて俺様には興味なしか」 「ハハハ。小国のガキが何の用だ。俺に殴り殺されたいのであれば、してやらん事もねぇぜ?」  ヘルナンデスから余裕じみた台詞が漏れた。だが、奴の纏う覇気が恐怖を忘れさせてはくれない。  先程、ヘルナンデスの殺意の籠った攻撃を防ぐ事に成功したのは俺の方だ。咄嗟に立てた策ではあったが、これまでの経験値を駆使し即死という最悪な状況だけはま逃れはした。  だが素直に喜べない気持ちが浮遊する。今にも途切れそうなライフゲージを無言で見るハイカカオ。彼もまたヘルナンデスに対して感じる何かがあるのだろう。  パリィに即時詠唱、それにファラオの加護。全ては俺が今出せる全力であり、戦闘を有利に運ぶためのピース。  それを全て駆使して、ようやくカウンターの一撃を与えることに成功した。  成功しただけだった。  何も無かったかのようにその場立つ男、ヘルナンデス。俺の三種技を受けて直ぐに言い当て、解読している様子を見るに、彼の中では『理解できる範疇』なのだろう。 「しかし実に不愉快だ。自己紹介をしてやったにも関わらず、挨拶までしてくるとはな……本来は有料なんだが、特別サービスだ」  異変であると何よりも感じるのは視覚よりも触覚や痛覚の類いであると俺は思う。  人間は視覚による情報に頼りっぱなしで、他の感覚に対しては疎い。その為、触覚や嗅覚などの他の五感で感じてしまう恐怖や違和感はなかなか拭い去りきれないからだ。  視力を必要としない生物は、触覚が長け、聴覚を必要としない生物は嗅覚に長ける。  平均的な能力であるならば、生存戦争に敗北し、種が絶滅するであろう。  他者に比べ何かに特化した種だけが生き残る。 「ちっ……」  ハイカカオの舌打ちが俺の耳に届く。やり場のない感情が空間へと漏れた音に同意せざるをえない。  ヘルナンデスの影から、蒼黒い生物がぬるりと姿を現す。生物を扱うジョブは幾つかある。  姿を現したのは、悪魔系のモンスターだった。だが、レッサーやハイレッサーの類いを召還したのではない。今まで見た悪魔系よりも知能、戦闘能力が高そうだと感じずにはいられないオーラを纏っている。
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