第34話 領域外フリーフィールド

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 排出されたモンスターは、地面に足をつけるなり此方を眺めていた。身体はまだこちらを向いておらず、まずは目視だけしようとしたのだろう。首だけ此方を向け、横目で俺たちを確認していた。 「ハイカカオ。注意しろよ……ハイカカオ?」  不審に思った。俺の呼び掛けに対し応答がなかった事に。口数が少ないが、黙っているような人間ではない事はわかっているつもりだ。ましてや、新たな敵が現れたこの状況で連携を取らないのは自殺行為。  嫌な予感は的中していた。  脇腹付近を抉られていたハイカカオは、口から大量の紅い液体を噴き出している。苦悶の表情を見るに重症そのもの。圧倒的な差が結果として表れている。 『大丈夫か?』  そう問いただそうとした俺だったが、出来ずに踞る。暖かい痛みがじわりじわりと俺を襲う。  数秒硬直し、現実を受け止める。 『あの一瞬で俺も襲われたかのか』と。  魔力帯の気配は感じなかったことを鑑みるに、魔法ではなく物理で襲撃されたのだと悟る。俺は即時詠唱で回復魔法を発動し、ハイカカオの傷を癒す。  抉れた皮膚までは完治出来ずとも、歩行はできるくらいには状態を戻した。 「派手に貴様もやられているじゃねーか、治癒屋」 「お互い様……な」 「何故貴様は回復しない?それに、ダメージは1はまぐれだったのか?」 「あぁ、俺回復すると死んじゃう病なんだよ」  種族マミー。ミイラと人間のハーフである俺。昔はハーフだの帰国子女だのプラス属性に憧れていた学生時代がこんな俺にもあったっけ。  それにハイカカオからの疑念。ダメージ1の崩壊。元々、ファラオから託された包帯は万能アイテムでも神をも妬む法具でもない。  物理攻撃を受けた場合、圧倒的な防御力をもって結果を『1』としているだけである。  クリティカルヒット、つまり改心の一撃が加われば『1』の壁は崩れ『2』以降の数字をもたらす場合がある。  だが、今回はその説ではない。包帯を装備した左腕で奴の攻撃を防ごうとしたが、出来ずにいたのだ。  奴の行動を眼で追えきれずに、結果として無防備な状態で奴のアタックを受ける格好となってしまったのだ。  防ぐ事が出来ず、ライフゲージの大半を失ったのは想定外。ミイラ化している俺は回復技の恩恵を受けることを許されていない。  新しい地で圧倒的な武力を前に朽ち果てるしか未来はない。潜入してものの数十分で大物と出会し、なんの成果も得られず観光客かのように、何もせず元いたフリーフィールドへ逆戻りするのかと、絶望が渦を巻いた。  終了を告げる緞帳が希望の灯りを奪いかけようとしていたとき、 「2人とも眼を閉じて!!」  聞き覚えのある声がした。
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