第34話 領域外フリーフィールド

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 全てを包んだのは1つの発光体。聞き覚えのある声がしたかと思えば、目映い光が視力を遮る。 流石のヘルナンデスも、その太い腕で眼を覆う動きのまま静止していた。  俺やハイカカオの2人では作り出せなかった戦闘意外で生み出す隙の時間。だが、今ある状況を認識するだけで、この僅かな時間は消え失せてしまう。  脆くて、儚い時間。  それを生み出したのは 「理由はあとで聞くから今は逃げようよ、そうしよう!!」  焦る声も特徴的だが、何より聞く者の耳を奪う澄んだ声。流石、多くのイベントの進行をマイク1本で任されるだけはある。 (リシャミー)  この声を聞いて、そして一度見たら忘れないこの溌剌とした仕草はどの世界に飛び込んでいても何も変わらない。  だが俺はリシャミーの名を呼ぶことはしなかった。危険を省みず俺たちのところまで来たんだ。わざわざ彼女の正体をヘルナンデスに伝える必要がない。 「すまない、ハイカカオ。あんたしかこの場を切り抜くことができない」 「俺に、逃走する為にスキルを使え……と」 「見たろ?奴のスキルは召還系の類い。それにも関わらず身体能力の高さは異常だ。奴のような格上と対峙するには情報と対策が必要さ。それに俺たちが観光(··)に来た目的も整理しないとな。あんたが新しい路を示さない限りアメリカでの旅はここで終わるぞ?」 「ちっ……ペラペラとよく喋る口だな」   ハイカカオは戦闘に対しての怒りを鎮めた。そして、barフロアの中央に1つの標識が。  ハイカカオもノータイムで魔法を発動できる『変則詠唱』の使い手。俺が使用している古代詠唱の即時詠唱とは仕組みが違う。  俺のは、魔力帯の配置や流れを把握し編むように形成することで発動している。その為、魔力帯の構成をアレンジすることが可能であり、通常の魔法陣から生み出される魔法と比べ威力の強弱やスピードの強弱も可能である。  一方、ハイカカオの変則詠唱は、魔法陣発動の簡略化を図っている。その為、変則詠唱で生み出される標識は、既存の標識となる。 「貴様の指図で設置したんだ。費用はいただくぞ?」  ハイカカオの合図とともにbarの室内に濃い霧が立ち込めた。光に比べ霧は景色を遮っている時間が長い。  『キリ注意』と記載されている標識により、ライとハイカカオ、それに助けに来たリシャミーの3人は誰一人欠けることなくbarから脱出をした。 「ちっ……追い込んだネズミにまさか逃げられるとはな」  ヘルナンデスは逃げた3人を追いかけるのは困難だと悟るや否やbarに遺されていた酒を勝手に開けて飲み始めた。
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