第34話 領域外フリーフィールド

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(3)  僥倖の2文字ではとても言い表せない幸運が俺たちを優しく包む結果となる。仮に、命辛々脱出するまでがアメリカ版フリーフィールドに来た際のチュートリアルだとしたら大したものだ。  死を感じ、恐怖を覚え、生還するというギリギリを嫌でも味わったのだ。他地域から来た新参者に対する手荒い歓迎なのだとしたら笑えないどころか、俺はこの世界に入れた秋山を法的な手段を用いて訴えてやる。 「なんで、2人がアメリカの世界にいるの~??日本の世界の方は辞めちゃったの?それとも、私みたいにデータだけの存在になっちゃったとか?」  不思議がる仕草も愛らしい。彼女は俺やハイカカオのようにゲームの世界にログインしているのではなく、ネットの世界にだけ存在する人工知能をもった存在だ。  この世界はアメリカにあるフリーフィールドだ。リシャミーの言う通り通常では日本からはログインできない仕様である。また、リシャミーなら多くのゲームの世界やネット上のイベントの司会を任されている為、気軽にいろいろな世界にログインできるのだろう。羨ましい限りである。  この地に降り立たされた理由をリシャミーに伝えた。 「ふ~ん。ライくん達は訳ありで来てるんだね~」 「あぁ、そうさ。こう見えて大型機関から密命を承けて行動してるんだぜ?」  少し偉そうな口調になってしまう俺。ハイカカオは呆れてため息すらついている。 「そうだよね~。でないと『おたずね者』として追いかけ回されないもんね~」 「そうそう、おたずね者……は?オタズネモノ?!」  テローゼのように急に片言になる俺。リシャミーの言っている意味がさっぱりわからない。俺たちは日本政府という公的機関から用意された特別なアカウント経由でログインしている。しかも、これまでの能力をコンバートしている、謂わば『強くてニューゲーム』状態と言っても過言ではない。アメリカという別環境でゼーフィアの痕跡を追う重大ミッションがあるなか、当然といえば当然の事ではある。  それが、なんだ…… 『おたずね者』?!  リシャミーと云えど、聞き捨てならない台詞だ。 「だって」  リシャミーの口が開く。 「2人とも」  2人ともがどうしたんだ。 「キャラネームの色、赤い……よ?」  ……ふぁ?!  リシャミーに指摘され初めて気がつく。俺とハイカカオの表示されている名前は確かに赤色だ。リシャミーは黄緑に近い色をしている。  聞けば、リシャミーは依頼され、来訪している『特別ゲスト』扱いとしてこの世界に招かれているそうだ。その為、特別に防御に関するステータスが俺たちよりも倍以上付与されており、ネームカラーも特別ゲストを表す黄緑色とのこと。 「この世界で、赤色で表記されている意味……てなんだ?」  答えなんかわかっている。さっきリシャミーが教えてくれていたんだから。俺が聞いたのは理解したくないからだ。上手く整理、把握が追いついていない。  だが無情にもリシャミーは俺に告げる。 「赤は犯罪者リスト入りの表示だよ。だから、このゲームの運営側に雇われている暗殺者ヘルナンデスに狙われていたんだよ……ね?」
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