第34話 領域外フリーフィールド

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 参加者である俺達に配布されたアイテムは1つのみ。今回のフィールドの地図でもなければ、リタイヤボタンでもない。 「治癒屋……それは」  俺が手にしていたのは、耳に着けるタイプの小さな装置。参加者分ということで、ハイカカオの分と自分の分の合計2つだ。昔に一時流行った、耳にかけるタイプのイヤホンがワイヤレスになったような形をしている。 「さあな」  無料で渡されたアイテムをなかなか使う気にはなれないが、動作確認の為装着してみる。すると微かにだが音がするのがわかった。  一定間隔で規則的に音がなっている。その音は、泥で(うがい)をしているかのように耳に残る不快な音だった。籠った音に隠れる低音の呻き声みたいだ。 「気持ち悪いな」  俺はすぐさま外そうとした瞬間、違うプレイヤーが俺の視界下に入る。 「ハイカカオ、近くに誰かいるぞ?」 「嘘はよせ、俺様には見えない」  ハイカカオの返答により、俺の視界が通常よりも広いことを思い出す。この世界に飛び込んだ段階で視力をあげる魔法を唱えていた。  視力って言っても、完璧に相手の姿が見えているわけではない。200mも離れており、かつ遮蔽物により直接視できない場合は、サーモグラフィのようにシルエットのような形で把握する。  俺が見つけたプレイヤーはビルの向こう側にどうやらいるようだ。距離にして100mくらいと言ったところだろうか。  俺達が連れて来られた世界は、荒廃がかなり進んでいるゴーストタウンのフィールドだった。かつて、この地域に文明が栄え、人や物が行き来し、希望と野望に満ちた街であったことが窺える。  だが、俺達が来た頃にはこのフィールドに生命を感じさせる温かみなどは一切感じなかった。潤いを忘れた地面から伸びた枯れた花が彩りを忘れ揺れている。  そんな世界に人影は目立つ。それにシルエットで、耳の付近に配布されたアイテムを着けているのがわかる。 「俺の嘘くらい見破れないわけないだろ?」 「ふん……本当のようだな、では敵か」  敵って事はたぶんないだろう。同じ参加者が鬼が紛れているパターンの遊びも存在するが今回は違うだろう。  ゆっくりと辺りを気にしながら動いている。しかし妙だな。 ー何であんなに震えて移動しているのだー  何かに怯えている様子のプレイヤー。頻りに前後を振り返りながら挙動不審だ。 「どうした?貴様には何が見えているのだ」 「いや、見え……」  俺がハイカカオからの問いに答えようとした瞬間、プレイヤーの首がゴロリと落ち、そのまま胴体がゆっくりと横たわった。
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