第34話 領域外フリーフィールド

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 見えたんだ。必ず付いている筈の首が重力に逆らうこともせず、胴体から分離した。ハイカカオに対しリアルタイムで上手く伝えることが出来ず、端的に「死んだ」だけに留まった。  何故死んだのか。誰に殺されたのだろうか。  異常な世界に迷い込んで早々に不気味な光景に遭遇した。いや、遭遇と言えばかなり語弊がある。起こっている場所はビルの向こう側よりも離れた所。本来ならば肉眼で捉えることが出来ない、謂わば目視のエリア外の事だ。  俺のように認識できるエリアを極限まで広げる、もしくは、テローゼのように壁をすり抜けて現場近くまで行かないと認識できない話だ。異常なのは、この世界じゃなくて、案外俺なのかもしれない。 「ふん……誰でもいつかは死ぬ。そんな事でいちいち騒ぐな」  相変わらず鋭い目線で俺を睨む。今はその冷静さが俺にとっては救いの1つなのかもしれない。  殺された事実からするに、あのプレイヤーは誰かに殺されたと素直に考えるほうが普通だ。  むしろ、簡単に済ませてはいけない点といえば、首をはねられる前のプレイヤーの動きだ。何かに怯えるように震えていた。  彼は既に手負いだったのか……それとも、受け入れがたい何かが彼の心を制圧したのだろうか。  ハイカカオと俺は、殺されたプレイヤーの近くまで移動した。現場には分離した身体の欠片が転がっている。ハイカカオは、死者の首を徐に蹴っていた。 「お、おい!いくら何でもそれは悪趣味過ぎるぞ!!」 「治癒屋。何故こいつは死なない?」 「はぁ?!いや、死なないってもう既に死……」  俺はその時、ハイカカオの質問の本当の意味を理解した。俺が言った通り死んでいるのであれば、死体は消失し【○○プレイヤーDEAD】のような表示だけを残すのが通例だ。  確かにクエストによっては死体をそのままにするパターンもあるのだが、それでも『このプレイヤーは死にました』とわかるような記載は必ずされる筈だ。  それが無いということは、 「つまり……」 「あぁ、治癒屋。こいつはまだ本当に殺されたんじゃない。プレイヤーのアカウントはまだこの場に存在しているが、動けない状態にされているのさ、恐らくな」 「ハイカカオ、これは」 「あぁ、アカウントを人質にしている手口だろうな。想像するに、これはバグの一種だろうな」  ハイカカオの口から漏れた『バグ』という単語。ハッカーであるハイカカオの説得力だけが、無情にもビルの壁を押し返し、俺の耳に何度も入り込んできた。  
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