第34話 領域外フリーフィールド

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「バグねぇ……」  禁則地といい、このエリアといい、俺は秋山の策に躍らされている気がしてならない。  だが、死体蹴りは趣味にはあわない為、丁重に今後は俺の見ている前でしないようにお願いをした。 「油断するなよ、治癒屋」  俺に目をあわせることなく歩き出すハイカカオ。いつになく真剣な表情だ。  『魂抜き』  プレイヤーのキャラデータをゲームの世界に残したままアクセスさせないこの状態をハイカカオはそう名付けていた。  試しに俺の回復魔法を唱えてはみたが、息を吹き返すことはなかった。魂抜きをされたキャラの身体は切断されたまま。  その後、警戒しながらも辺りを散策したが、かくれんぼの核となる鬼の存在も確認できず、他のプレイヤーさえ見つけられないまま時間だけが過ぎた。  この廃れた世界には、どうも救いは存在しないようだ。 「何も出逢わないな」  俺がボソリと呟くと、ハイカカオは呆れた顔を見せながらこう言ってきた。 「当たり前だろ」と。  何が当たり前なのだろうか。俺達が今参加しているのはリシャミーが言っていた『かくれんぼ』ゲームだ。  ゲーム的には誰にも遭遇することなく過ごせている事は大変優秀な出来だとは思うが、こうも手掛かりにありつけないとなると、俺達だけ仲間外れにされているようにさえ感じる。  鬼も他のプレイヤーも、かくれんぼには飽きて他の遊びをしているのかもしれない。  そんな子ども染みた考えを一蹴したのは、やはりハイカカオであった。 「後ろくらい確認しろよ」と。  言われるがまま振り返る。後ろの少年だあれと言わんばかりに。  すると廃墟に溶け込むかのように標識がずらりと刺さっていた。  良くみると一方通行や進入禁止の標識が各通路毎にあるのがわかった。 「も、もしかして……」  無様な問いに対し、『俺達に不利になるようなルートは全て遮断した』と当たり前のように返答してくれたハイカカオ。  背後から襲撃されないように、先手を幾度なく実行してくれていたことに気がつく。今ある退屈は、ハイカカオが造り出してくれた安全であったことに。  そして、暫くして前方に不思議な影を確認することに成功した。 「また、何かが見えるのか?敵か」 「いや、さっきよりもやや遠い。あの廃ビルの3階付近に人影が……合計3人見える」 「そうか。貴様の透視スキルをあてにはしていながいが、移動するとしよう。ついてこい」 「わかった。合流するのか?」 「馬鹿か貴様は。何もわかっていないようだな」  睨まれながらも、黙ってついてこいとだけ呟き、ハイカカオは歩き出した。
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