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ハイカカオは迷うことなくビルの中を縫うように進んでいく。まるで毎日この場所を訪れているかのように自信に満ちた様子だ。
階層をあげて上へ。
「ここぐらいにするか」
気がつけば、だいぶ上の階までやってきた。周りの建物も地上で観ていた景色とはまた変わった雰囲気を醸し出していた。
「だいぶ上まで来たけど大丈夫か、ハイカカオ。敵に遭遇すると逃げ場はないぞ?」
「貴様は戦闘中は頭がキレるわりには、闘いに不馴れな時もあるな」
「悪いかよ。俺は治癒師だ。ハイカカオのような戦闘馬鹿と一緒にしてもらっては困る」
そうだ。奪うこと、他の情報を盗むことにたけている現役ハッカーのハイカカオと比べても俺が勝るだなんて事があってはならない。
「安心しろ。あのデカブツの攻撃を受け止めていた貴様も戦闘中だけは十分馬鹿の素質はあるぞ」
デカブツ?あぁ、ヘルナンデスとの戦闘のことか。しかし心外だ。俺はファラオの包帯の恩恵を受けているだけで、俺はただの一般的なか弱い治癒師ちゃんだ。誤解しないでいただきたい。
「それに、逃げるなんて真似は絶対にしねぇ。ここには『知る』為に上がってきた。ほら、視ろ」
ハイカカオが指を指す。
俺が視ていた3人の姿がはっきりと確認できる高さまで、俺達は移動していたのだ。
「奴等、こちらには気づいていないようだな」
服装から察するに、3人は軍隊のようだ。ファブルジョイノ達と同様に迷彩柄が似合うチームだ。ファブルジョイノ達は今でこそレカの親衛隊のようなオタク的立ち位置で定着しているが、彼等だってアーミースキルは非常に高かった。
が、ここは本場アメリカだ。彼等3人から溢れ出すオーラは、ファブルジョイノ達とは比べ物にならないくらいに圧倒的だ。動作の1つ1つが的確であり、いつ敵に遭遇しても戦闘にスイッチ出来るような陣形を保っている。
「上手いな、あの陣形。合図無しに見張り役が交替している」
「貴様は観光に来たのか?感心してないで、良く観ておけよ。これから死ぬ様を」
「はぁ?何言って……」「黙れ、来たぞ」
突然、俺の口を塞ぐハイカカオ。俺はハイカカオに言われたとおり3人の様子を観察を再開した。
死ぬ様ってどう言うことだよ。まるで彼等がこれから鬼と遭遇するのを知っているかのような言い種じゃないか。
合っていた。
ハイカカオの読み通り、間も無くして彼等3人は鬼と遭遇し、そして殺された。
「成る程、あれが鬼の正体か」
当たり前かのように笑うハイカカオ。戦闘馬鹿が何を考えているかはわからないが、それでも俺達は、プレイヤーを襲っていた鬼の正体を知ることができた。
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