第34話 領域外フリーフィールド

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「すまない。悪ふざけが過ぎた」  本当にそうだ。少々からかうだけのつもりが、リシャミーの胸に触れる、視る、挙げ句の果てには、抱きしめられるわで、こちらも散々な目にあった。  ここが、オープンワールド上でなく、その中の閉鎖的なイベント空間内で助かった。リシャミーの熱狂的なファンに目撃されていれば、間違いなく狙撃されていたに違いない。 「ううん……ひっく」  泣いてはいるが、声が出て安心したのか、俺の袖の裾をずっと掴んでいるリシャミー。俺の事を怒っているわけでは無さそうでひとまずは安心した。  リシャミーの背中に可愛くささったミニチュアの道路標識を抜いた。勿論、事前にハイカカオには承諾を得てから行動した。  こんな、お子様ランチに飾られているような小さな標識でさえ、本格的に効力を発しているだなんて、ハイカカオの能力は底がしれない。 「全く、面倒な奴を捜しあてたものだな。貴様が面倒を見ろよ、治癒屋」 「まぁ、そうカリカリするなって」  こうして、俺はリシャミーの保護者のような役割をハイカカオから押し付けられてしまった。 「んで、そろそろ落ち着いたか?教えてくれないと……」  含みを持たせる俺。『教えないと、また酷い目に遭うぞ?』とにおわした。勿論、リシャミーの身体を(もてあそ)ぶという意味ではない。大きいわりに柔らかいという、あの何とも言えない感触はもう懲り懲りだ。 「ふぁえ!!な、何でも言うこと聞くからっ~いい子でいるから~」  だ・か・ら……  これ以上くっつくなって。可愛い顔を俺なんかに向けるなって。俺がリシャミーの熱烈なファンだったらどうするんだよ。 「いい子だ。じゃあ、答えてくれるよな?」 「うぅ……そうやって、簡単に女の子の頭を撫でるのは良くないんだよ、ライくん?」  恥ずかしいそうな表情を見せつつも、少し拗ねたような様子のリシャミー。ただ、嫌がる様子はなく、気持ち良さそうに目を閉じて、素直に撫でられていた。 「リシャミーは、俺達を尾行してたろ?ヘルナンデスに襲われる前から」 「な……なんで、わかったの?!」  分かるさ、そんなことくらい。俺達は通常の道からかなり外れた裏通り経由で怪しい場所に連れていかれた。アメリカのプレイヤーでさえ、普段は歩かなさそうなくらいの怪しい場所だった。  そこに連れて行かれたにも関わらず、たまたまイベント関係でこのアメリカの世界に来ていたリシャミーに気づいてもらって助けてくれた?  出来すぎだ、あり得ない。そんなご都合展開、ストーリーをガチガチに固められたRPGじゃない限り起こりえない。  答えは簡単だ。リシャミーはずっと俺達をつけていたからこそ助けることができたのだ。  問題はそんなところじゃない。何故俺達はリシャミーに尾行されていたのかが問題なのだ。
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