第34話 領域外フリーフィールド

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「言わないと……駄目?」 「何でも俺のお願い聞いてくれるんだろ?」  悩む仕草を見せるリシャミー。 「あんまり知られると良くないんだぁ……その、えっとライくんにだけこっそり教えるとか……駄目かな?」 「それは絶対に駄目だ。俺とハイカカオは今2人で行動している。片方だけが有益な情報を得てしまうと、信頼関係は壊れてしまう。裏切るような行動をするくらいなら、初めから単独(ソロ)で行動するさ」  そう。馴れない土地に、馴れない環境下で、しかも、アカウントの生死だけでなく、自分の今後にも影響しかねない、まさに死ねば終わりに近い。  1つのミスや連携・感情の綻びが死を招きかねない。だからこそ『信頼』は絶対に壊してはならないのだ。 「ふん……俺様は、治癒屋と馴れ合う気はない。いつでも殺せる機会を狙っているさ、間違えるな」  間髪入れずにハイカカオから、強烈なダメ出しを喰らう俺。なんだよ、人が格好良く言ってるのに。 「だから、さっさと聞いてやれ、治癒屋。俺様はこの女の詳細等に興味などない」  そう言って、スタスタと歩き始めたハイカカオ。何だかんだ言って、俺とリシャミーにちゃんと気を使ってるじゃないか。 「えっと……ハイカカオくん先に行っちゃったね?大丈夫かな」 「大丈夫。すぐ下の階で待ってくれているはずさ」 「じゃあ……」  そして、リシャミーは俺の耳にこっそりと教えてくれた。  リシャミーは、ただのイベントを盛り上げる為に生み出された人工知能を搭載したキャラクターではなかった。  この仮想空間に生み出されたバグを調査、ときには修正等を任された存在【デバッガー】であることを教えてくれた。 「じゃあ、司会者ってのは仮の姿なのか?」 「ううん、そんな事はないよ?!イベントに参加してくれる人達との交流は凄く新鮮でワクワクするのっ!!何だか私、人みたいって思える瞬間なの」 「そうか……ま、リシャミーは『人みたい』って言うか、プレイヤー以上に『人っぽい』けどな。泣くし笑うし。笑うは、叫ぶは、歌うはで、忙しい子だなっとは思うけどな、俺は」  そう言うと、リシャミーは俯いてこちらを見ようとはしなかった。 「……ほんと、ライくんはどんな()でも、悩みとかすぐに治しちゃうんだから、ズルいよ……」  ボソリと呟いていたので、ハッキリとは聞こえなかった。少しだけ耳や顔が赤くなっているのだけはわかった。完全AIキャラでも風邪とかひくのだろうか。うーむ、興味深い。  リシャミーの正体をバラさないことを約束し、俺達はハイカカオの元に戻った。
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