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不意打ちは見事に成功はしたが、手放しで喜べる状況ではなかった。助けた魔法系のプレイヤーは一命を取り留めたが、肝心な死神の姿は見えない。
そればかりか、近くから悲鳴がフィールド内から次々に聞こえてきた。
駆け寄ると、首元を損傷しているが、死亡までには至っていない負傷者がゴロゴロした。
命を狙われた死神ネルガルは、作戦を変えたようだ。一撃で仕留められなくても、攻撃をしては消え、その場には留まらず、次のプレイヤーを襲う。そうすれば、時間はかかるが、確実に仕留められると踏んだのだろう。
「野郎……許さねぇ」
ハイカカオも先程狙われた。ハイカカオの反応速度が異常に早いため、緊急回避をした結果、首ではなく太股の傷だけで済んだ。
ライフゲージそのものは俺の回復魔法で事なきを得たが、傷口までは完全に回復することはなかった。特殊な鎌を使っているようで、ハイカカオの俊敏さは奪われてしまった。
「安心しろ、戻れば治してやるから」
しかし、ハイカカオは俺の言葉など耳に入っていなかった。死神ネルガルに対する憎悪だけで動いているのがわかる。
「ライくん……」
「あぁ、わかっている」
そう。わからないことがわかっている。ここまで無差別に狙われるのは想定外だった。多くのライフゲージを奇襲により失った死神ネルガルからすれば、俺達を殺そうと頭に血が上り、行動をもっと限定的になると思っていた。
だが、実際は真逆だった。ライフゲージをこれ以上失わぬよう、ハイディングを駆使したヒット&アウェイを徹底している。
戦闘に長けたハイカカオでさえ、死神の神がかった攻撃パターンを攻略できずに重傷を負った。
「これ以上長引いてもジリ貧だ。むしろ、相手の勝率を上げるだけになる。リシャミー、俺の言っている意味……わかるよな?」
「?」
「……任せたぞ?」
俺はリシャミーとハイカカオを残し、負傷者の手当てを優先した。
「……あいつは馬鹿か。全速力で移動したら無防備じゃないか。『殺してくれ』と叫んでいるのと変わり無い」
「違うよ、ハイカカオくん」
「貴様に名前を呼ばれると虫酸が走る。それに何が違うのだ」
「ライくんは……敢えて時間を稼ごうとしている」
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