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「損な役回りだな」
ボソリと呟きながらも負傷者の手当てに入る。俺のライフゲージの色は正常を示す緑色をしている。
突飛な行動に移した俺を、死神ネルガルはいきなり狙おうとはしなかった。
誘き寄せる為の罠だと推察しているのかもしれない。先程から俺のまわりに現れるのは、雑魚モンスターばかりだ。
死神ネルガルからすれば、先ずは様子見と言ったところだろう。無理に危ない橋を渡ろうとせず、安全地帯から高みの見物と言ったところだろう。
ネルガルは狡猾だ。闇雲に行動しているわけではない。
助かったよ。お前が賢くて。
助かったよ。お前が俺の存在を問題視してくれる事に。
実際は逆。
俺が奏でているのは、偽物の脅威だ。実際には無策であり、今すぐネルガルが俺を殺しにかかれば、そこで勝負は決まる。俺は直ぐにでも息をしない塊になるだろう。
無策のまま前線を動き回る治癒師程無謀な事はない。本当に損な役回りなのかもしれない。
埃被った愚策であったとしても、この場にいる者を1人でも多く助けられる事ができるのら、それは本望だ。
取り巻きの通常モンスターはわざと俺の視界に映りながら攻撃をしかけてくる。念力で宙に浮いたコンクリートの塊を俺に向けて飛ばしてきている。
ありがとう。ゴーストタイプのモンスターが物理的な攻撃を仕掛けてきてくれて。
左腕に巻いた包帯が怪しく揺れた。
コンクリートの塊の直径は約2mくらいか。大人1人分がスッポリはいるようなサイズ。
高速で飛んできたコンクリートを俺は左手だけで優しく迎えることにする。
「残念だ。このサイズなら砂遊びにしかならん」
そう言って、一瞬にして粉にした。俺のライフゲージが脅かされる事はなく、モンスターは俺の所業に驚いていた。
そして、死神ネルガルにも良い印象を与えることが出来ただろうな。
「やはり誘き寄せて狙っているな」と。
さぁ、必要以上に警戒してくれ、俺を。俺を恐ろしいプレイヤーだと錯覚してくれ。
ファラオのオーラを身に纏い、『いつでも俺を狙ってくれて構わんぞ?』と言わんばかりに、仁王立ちをする。
稼ぐさ。時間を。
今は赤信号だとしても、俺は棒立ちのまま好機を待っているのではない。いつでも走り出せる心の準備をしている。
「ライくんっ!」
そして待ち焦がれた瞬間がやってきた。彼女の透き通った声は希望の音となり、暗雲を晴らし、俺達に勝利へと導く青信号となる。
『この異世界に君臨する高知能AIが弾き出した勝利の方程式』
その全貌を俺はリシャミーから伝えられた。
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