第34話 領域外フリーフィールド

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「損な役回りだな」  ボソリと呟きながらも負傷者の手当てに入る。俺のライフゲージの色は正常を示す緑色をしている。  突飛な行動に移した俺を、死神ネルガルはいきなり狙おうとはしなかった。  誘き寄せる為の罠だと推察しているのかもしれない。先程から俺のまわりに現れるのは、雑魚モンスターばかりだ。  死神ネルガルからすれば、先ずは様子見と言ったところだろう。無理に危ない橋を渡ろうとせず、安全地帯(アンチ)から高みの見物と言ったところだろう。  ネルガルは狡猾だ。闇雲に行動しているわけではない。  助かったよ。お前が賢くて。  助かったよ。お前が俺の存在を問題視してくれる事に。  実際は逆。  俺が奏でているのは、偽物の脅威だ。実際には無策であり、今すぐネルガルが俺を殺しにかかれば、そこで勝負は決まる。俺は直ぐにでも息をしない塊になるだろう。  無策のまま前線を動き回る治癒師(ヒーラー)程無謀な事はない。本当に損な役回りなのかもしれない。  埃被った愚策であったとしても、この場にいる者を1人でも多く助けられる事ができるのら、それは本望だ。  取り巻きの通常モンスターはわざと俺の視界に映りながら攻撃をしかけてくる。念力で宙に浮いたコンクリートの塊を俺に向けて飛ばしてきている。  ありがとう。ゴーストタイプのモンスターが物理的な攻撃を仕掛けてきてくれて。  左腕に巻いた包帯が怪しく揺れた。  コンクリートの塊の直径は約2mくらいか。大人1人分がスッポリはいるようなサイズ。  高速で飛んできたコンクリートを俺は左手だけで優しく迎えることにする。 「残念だ。このサイズなら砂遊びにしかならん」  そう言って、一瞬にして粉にした。俺のライフゲージが脅かされる事はなく、モンスターは俺の所業に驚いていた。  そして、死神ネルガルにも良い印象を与えることが出来ただろうな。 「やはり誘き寄せて狙っているな」と。  さぁ、必要以上に警戒してくれ、俺を。俺を恐ろしいプレイヤーだと錯覚してくれ。  ファラオのオーラを身に纏い、『いつでも俺を狙ってくれて構わんぞ?』と言わんばかりに、仁王立ちをする。  稼ぐさ。時間を。  今は赤信号だとしても、俺は棒立ちのまま好機を待っているのではない。いつでも走り出せる心の準備をしている。 「ライくんっ!」  そして待ち焦がれた瞬間がやってきた。彼女の透き通った声は希望の音となり、暗雲を晴らし、俺達に勝利へと導く青信号(サイン)となる。 『この異世界(ゲーム)に君臨する高知能AIが弾き出した勝利の方程式』  その全貌を俺はリシャミーから伝えられた。  
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