第34話 領域外フリーフィールド

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(7)  か細い糸が下ろされた。手繰り寄せるには心許ない。ぶら下がろうものなら奈落へ堕ちるだろう。  他の者なら躊躇するに違いない。我先にと掴みとろうなんてしない筈だ。  普通ならな。  だが、俺は知っている。生まれた意味を知りながらも健気に振る舞ってきた事を。  任務とは関係ないけど、死を恐れずに俺やハイカカオを助けてくれた事を。  隠し事も、嘘をつく事も下手くそな司会者を……  俺は知っている。 「ハイカカオ、リシャミーが全知識を駆使してはじき出してくれた方程式(ルート)だ。次は導いてくれよな、道路管理者」 「勘違いするな……俺様はバスガイドとは違う。全フィールドにおける法律(ルール)。  勝利の女神なんざ、俺様が従わせるまでだ」  ハイカカオはそう言い残し俺達はふたてに別れた。  取り巻きのゴーストモンスターを駆除してくれているのはハイカカオ。風の刃を生み出しては的確にモンスターの数を減らしてくれている。  脚を負傷者しており、普段の俊敏さは失われたままである。だが、標識を巧みに扱うことで敵の一斉攻撃を防ぎつつ攻撃に転じている。  無数に、そして複雑に設置された標識を短時間で攻略するのは至難の技だ。  対して、俺は回復魔法を唱えた。  回復の恩恵を受ける事はなく、逆に死への扉に自ら近づいた。マミーである俺の特異体質の影響はとても素直だ。 「ラ……ライくん?!嘘でしょ、そんなの……」  俺の行動を見たリシャミーはショックを受けていた。後で怒られても仕方無い。  俺のライフゲージを極限まで減らすことは、リシャミーの作戦には組み込まれていなかった。本当は、死神ネルガルの攻撃に耐えられるライフを残したまま、死神ネルガルが攻撃させてほしいという内容だった。  誰も死なずに導きだしたリシャミーの完璧な作戦だった。  だが、それだけでは正直言って不十分だ。リシャミーが襲われる心配が残ってしまうからだ。  確実に俺だけを狙わせるには、俺のライフゲージを極限まで減らす必要がある。  さぁ、  開けたフィールドに、手負いの兎が1匹逃げ回っているぞ。  今なら、簡単に俺を仕留める事が出来るぞ?!
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