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(8)
呼吸を整えるのに時間を要したが、俺達を襲うものはいなかった。倒し損ねたゴーストモンスターさえ姿を現さなくなった。死神ネルガルとの主従関係が切れたのか、それとも契約が解消されたのかはわからない。
ただ、未練さえ遺すことなく行方を眩ました今、廃墟が少しだけ明るく感じた。
「さて、倒したが茶番はこれで終わりか?」
減らず口は相変わらずだが、今はそのくらいの虚勢は何故だか心地いい。
「うん」
お喋り好きのリシャミーだが、ハイカカオの質問に言葉を濁した。ハイカカオもそれ以上は深く聞こうとはしなかった。
ただ単にリシャミーに興味がないと言えばそれで終了なのだが、あいつなりの優しさではないかと思うようになった。
デバッガーの務めを果たしたリシャミーは、何やら作業をしていた。
「リシャミー、死神ネルガルのデータ収拾か?」
「あ、うん。姿かたちは無くなったけど、バグの部分は回収できたよ。解析もしないとね」
「何処でするんだ?」
素朴な疑問をリシャミーにぶつけてしまった。俺には医院がある。秋山サイドが用意してくれた場所がある。
ログアウトすれば現実世界に帰ることもできるが、俺の居場所はゲーム内にある方がいい。これから、また秋山と連絡を行って日本側の下層世界に戻る手続きをすればそれで済む。
だが、リシャミーはどうだろう。
良くイベントなどで逢い、話す仲にまでにはなった。時々、下手くそな変装をして医院に遊びにくることもあったが、彼女はいったい何処へ帰っているのだろうか。
ゲーム上にだけ存在するリシャミー。感情も豊かな彼女は、独りでいいのだろか。
「ね。今日はせっかくアメリカに来ているからアメリカの何処かでしようかな」
暫くして判明したことがある。俺達が死神ネルガルと闘っている間に、ルカラは何者かに殺されていることに。
別にゲームをクリアした特典が欲しかったわけではなかったが、アメリカらしい治安の悪さを改めて感じた。
「アメリカねぇ……なぁ、とりあえず医院に来いよ?」
「ふぁい?!な、なんで?」
「なんで……って、一緒にいたいからじゃ駄目か?」
「えっ……と、その……いや、駄目だよ」
「駄目かどうかは来てから決めればいいよ」
「……ライくんは、私に来て……欲しいの?」
「ん?あぁ、当たり前だろ?」
勿論だ。リシャミーはAIで人間とは違う。ログアウトされる心配もないし、リシャミーさえ良ければ話し相手になるからな。
(バグの事聞き出して、秋山の依頼をさっさと終わらせたいからな)
「た、確かテローゼさんも居たよね?それにリコさんに、ソネルさんも……」
ん?急によそよそしい雰囲気になるリシャミー。みんなのこと、さんづけで呼んでたっけ?と、言うより今更何恥ずかしがっているんだ?!いつも遊びに来てるじゃないか。
「気にするな、ずっと居て良いぞ?」
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