第35話 枯樹生華

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「お姉ちゃん……お姉ちゃんってば」  目の前でプンスカとご立腹な様子で私の気を引こうとしている天使がいる。  可愛い仕草に初め気がつかないくらいに考え事をしていた自分自身に少しだけ腹がたってしまう。  こんなにも可愛い嘘つきちゃんが、私の事を姉と慕い、ずっと一緒に行動してくれるのにも関わらず、違うことで頭がいっぱいになてしまたからだ。  それも、このゲームの世界の事で考え事していたのではない。  【リアル】の事で悩んでいてしまったのだ。  ゲーム内は仮想空間であり、大好きな世界が無限にも広がっている。『非日常の生活』を『日常』とさえ思える程毎日通いつめた楽園である。  ゲーマーの憧れの世界である仮想空間であるにも、関わらずくだらないリアルの事で悶々としてしまっていた。 「ごめん、ソネルちゃん。何の話してたんだっけ?!」 「上の空……ライさんと何かあった?」  心配そうに見つめるソネルちゃん。 「そうなの!院長ったら、また失礼な事言うんだもん」  咄嗟に院長のせいにして誤魔化そうと試みたが、嘘をこよなく愛するソネルちゃんに通用する筈もなく、じっと黙ったまま此方を覗いたままだ。  真実を話すまでは、目線を逸らしてくれそうにもなさそう。 「じゃあ、ちょっと外出よっか……」  私はソネルちゃんを連れ出し、2人っきりで噴水のある広場まで移動した。院長の病院はメイン街よりもやや離れた位置にある為、少し歩いただけでも、自然豊かな公園が幾つもある。  ゲームの世界の公園は非常に美しい。ゴミは一切落ちておらず、戦闘に疲れた人がリラックスできるように様々な癒し要素が組み込まれているの。開放的な空間に、誰もが心穏やかになる。  そんな場所だったら、ソネルちゃんに話してもいい……そんな気がしたの。 「お姉ちゃんの悩み……リシャミーさんの事」 「……えっ?!」  あぁ、確かにそれもあるかも。  最近、やたらリシャミーちゃんが院長の近くにいるから「イベントの司会の帰り?」って聞いたら「ここに住んでます」って言われて腰が砕けそうになったのを思い出した。  テローゼちゃんはまだ良いわよ、納得できる。『おばけ』だから。  院長が居ないときに病院のお留守番を任されているし、そもそも院長の狙っている様子もない。
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