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別にここは私のアジトでもなければ、私の家でもない。院長の為の建物であり、公式からも認められた立派なクリニックである。
私からすれば、秘密基地的な感覚でもあり、私たちがクエストに参加する際に必要なアイテムや、フリーフィールドにいるアリちゃんや、イオマンテにあげる用の餌も保管されている。
と言っても、院長はマメなタイプなので、私が餌やりをするよりも早くしちゃっている。だから、私は モフモフしにいくくらいである。
イオちゃんのあの丁度いい毛並みのモフモフは本当に私を虜にした。私の近所にも水族館があって、巨大オオサンショウウオさんの縫いぐるみが売っているんだけど、あれと同じくらいにふわふわなの。
頬擦りじゃすまされない。そのままくんくんとにおぎながら寝落ちしたいくらい素敵時間が拡がるの。
「お姉……ちゃん?」
はっ?!
だめだめ、私から誘ったのに、また意識があっち行ったり、こっち行ったりしている。
「あのねソネルちゃん。私、今後、こっちの世界に来る時間が少なくなりそうなの」
「どう……して?」
ソネルちゃんから純粋な質問が帰ってきた。綺麗な瞳が私の眼を捉えている。眼差しからは言葉以上に強い想いが伝わってくる。
「おかぁさんがね、私がゲームをしていること、それとリアルの世界で美容室で働いていることを良く思っていないの」
私のお母さんは固い人だ。物理的な意味ではなく心がとても固い。意見を曲げたりせず、信念を貫き通すタイプの人間だ。
「お姉ちゃんのお母さんは……頑固さん?」
「あはははは。そうなの、私と一緒で超がつく程の頑固さん。アリちゃんが丸まった時くらい硬いかもね」
それから私はゆっくりと説明した。
私のお母さんは華道の先生をしている。私の実家は代々華道教室をしており、お弟子さんも地元の京都だけに留まらず、あり全国各地にいる。
日本にある華道の宗派のうち、最大宗派の1つが代々受け継がれてきたわけである。
私は、その跡取り娘ということになる。
「凄い……お姉ちゃんのお家って名家だったんだね」
「別に凄くはないよ。産まれてきた所がたまたまそうであっただけで、私が特別何か凄いってわけじゃない。
ソネルちゃんは違う。
ピアノの圧倒的な技術を身に付けていて、ソネルちゃんの演奏は世界中のみんなを虜にしている」
そう。私はがんばり屋さんのソネルちゃんとは違う。
華道の名家に産まれ、小さい頃から無理やりさせられていた華道を嫌ってしまった。
だから、私は違う武器を握って違う世界に飛び込んだ。
握り慣れているハサミで勝負できる世界を探し求めて、
私は美容師の世界に飛び込んだのだ。
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