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口にすれば嫌でも耳に届いてしまう。だから普段は自分から誰かに『家の事について』他の人に話したりなんかしなかった。
ソネルちゃんだからこそ話せるかなって思えたし、ソネルちゃんだからこそ、私の悩み話ですら、まるで嘘だったかのように消してくれるかも……だなんて思えちゃたりもした。
実際、ソネルちゃんに聞いてもらっただけでも心のモヤモヤが少しだけ晴れたような気がする。
誰かに聞いてもらうって事は大事なことだと言うことを今更ながら改めて気づいた。
「お姉ちゃんのママに……説得する?」
「ははは……。無理かな」
私の母に私の言葉は伝わらない。
これまで何度も必死に訴えて来たが、私が期待した言葉を返してくれたことなんて記憶のある限りではなかった。
おかぁさんからすれば、私は子どもであり、我が子であり、そして……
相応しい跡取りとして育てたい駒でもある。
私の生活が他の子よりも違っていることに気づいたのは中学の時だった。私からではなく、向こうから積極的に話しかけてくれる子が現れた。同性で仲良くできる友達が少なかった私にとっては大事な存在になりつつあった。
でも、お互いを深く知る事はなかった。
そして、知ることとなった。
「凛々胡、早く支度しなさい」
おかぁさんからの度重なる華道の指導により、お友達を知る機会はおろか、自分の時間を奪われている事に……
華道のレッスンを受ける事に抵抗感なんてなかった。物心がつく前から私の周りには華道に触れる環境が誰よりも整っていた。
『触れる機会が多かった』と言えば聞こえが良く、それこそ華のように綺麗な響きだ。
だけど、実際は違う。
そんな、香りの良い世界なんかではなく、私の身動きを拘束する枷のような存在だった。
スクスクと育つ蔓は、ゆっくりと私の身体に纏わりつき、手足を拘束するだけでは飽き足りず、私の心をも縛りつけていた。
日に日に締まりはキツさを増し、呼吸をするのも一苦労なくらいに追い込まれていた。
そんな私は、逃げ出すように違う事を求めて美容師の世界に飛び込んだ。
むしろ逃げ込んだと言った方が近いかもしれない。ただ、ハサミの技術以外持ち合わせていなかった私は、他人とどう関わって良いかわからない人間に成長しまっていた。
おかぁさんから、技術や志しだけを叩き込まれていた私にとって、他人との接し方や、他人がどう考えているかだなんてわからない人間となっていた。
転がり込んだ美容師の世界でも居場所を感じれなかった私。
ストレスを発散させるため、おかぁさんから干渉されない深夜帯のゲームの世界に転がりこみ、
トンチンカンな事を言う院長に出逢い、世界一綺麗な嘘がつけるソネルちゃんに出逢いここまで来たわけである。
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