第35話 枯樹生華

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 (2) 「……で、これは一体どういうつもりなのか説明してくれる?院長……」  リコの視線がやけに痛い。痛いのは何も視線だけではない。若干の腰の痛みを感じてはいるが、この程度の軽い打撲程度の痛みならゲームの世界では次のログインには完治している。  まさに医者知らずってわけだ。  ついでにリコの不機嫌も一瞬で治せる特効薬もほしいところだ。  アリスがここへ尋ねてきたときも似たような表情を向けられた気がする。もしかしたら、リコのアバターの標準的な表情が、この蔑んだ目が印象的なこの顔なのかもしれない。  ソネルのようにジト目が似合うアバターもあれば、リコのようにハンターの眼をした切れ味抜群のキャラがいても不思議ではない。  さすが、二刀流バーサーカー様である。  さて、  リコの目の前には、俺が床に仰向けで寝転がっているのだが、俺を覆い被さるようにリシャミーが膝を立てたまま見つめあっていた。  この状況から見れば確かにリコの表情も納得できなくもないのだが、冤罪にも関わらず、わざわざ自分を下げるような判決を俺は望んでいるわけでもない。  ここは、キッパリと身の潔白を伝えようではないか。 「リコ、落ち着け。これは、本当に『違う』んだ」 「だ~か~ら……何が違うのさ?私が視ている光景はソネルちゃんが生み出した嘘ってわけ?」  へっ?!わ、私?!  と言わんばかりに、小さな肩をビクンとさせていた。 「違う」  勿論違う。ソネルは嘘を生み出す鬼才だが、姉だと慕うリコを哀しませるような嘘はつかない。小さくて可愛いくて、無意識にその綺麗な髪を撫でたくなり、勝手に撫でても受け止めてくれる優しさを兼ね備えている事くらい俺は知っている。 「じゃあ、テローゼちゃんが造った幻影?」 「……?ソンナ技ナンカ使エナイゾ?」  そして、次に流れ弾を受けたのはテローゼであったが、自ら弁明している。そして、テローゼも勿論、白だ。  下着の色の話ではない。テローゼが怪しいかどうかの意味であり、むしろ白は今日のソネルである。ちなみに、テローゼは薄紫で、リシャミーは橙色だった気がする。 「リシャミーが、俺の作業を手伝おうと、椅子を使って棚の高い所に収納してある薬品を出そうとしてくれたんだ。危ないなら静止はしたんだが、案の定踏み外して、下にいる俺が巻き込まれたってわけだ」 「ふ~ん」 「何だよリコ、その反応。まだ疑っているのかよ?」  するとリコはこう言った。 「リシャミーちゃんてAIで賢いなら、椅子の上に立ったら危なくて転けることぐらいわかるんじゃない?」
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