第35話 枯樹生華

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 沈黙が重圧となり、打ち(ひし)がれたかのようにがっくしと肩を落とすリシャミー。 「ぬぅぉ~。か、華麗な作戦だったのにリコピーに見破られた……」  確信犯は潔く白状した。リシャミーがリコの事をヘンテコな呼び方をしたのは、彼女なりの最期の細やかな抵抗の現れただろう。リシャミーから可愛いあだ名を呼ばれて、本人も嫌な気持ちはしておらず、少し照れているようにも見えた。 「んだよ、お前わざと椅子の上に乗ってたのかよ?」 「いかにも……だよ。ごめんなさい。私ながら変な真似しちゃって、部屋ちらかしちゃったね、にへへ」  馬乗りになったまま、俺の身体の上で申し訳なさそうに笑っている。普段のステージ上では見せたことのない表情はとても新鮮だ。 「じゃあ、早くどいてくれないか?」 「それは駄目だなんだよ?!」  意外な返答に圧倒され「何でだよ」と返すのが3秒程遅れてしまった。もし今がBOSS戦の真っ最中であれば、3秒の硬直(スタン)は命取りだ。普段なら俺はそんなヘマはしないよう最新の細心の注意をしている。  にも関わらず、俺だけでは留まらずこの院内に居合わせた誰もがフリーズしていた。 そして、俺の口から発せられた「なんでだよ」の問いに対し、硬直(スタン)使いのお姫様は口を開いた。 「だって、馬乗りは男の子がドキドキするランキング第5位にランクインしていたんだもん!!だから、ライくんに喰らわせようと、椅子の傾きと、ライくんの歩く速度、それに倒れる私を受け止めようとする際に発生する僅かな動きの乱数を見事に調整し読みきって成功したんだから!!ライくんがドキドキするまでの時間は私の演算では後7秒ぅ!だから……  ライくんがドキドキするまでは動いちゃ駄目なんだよ?」  をいをい。    AIの能力を、そんなくだらない事に全フリした結果がこの馬乗りってわけかよ。誰だよ、リシャミーを作った作者は……  はぁ~~  控えめに言って最高だよ、あんた。  俺だって一応男の子だ。こんな可愛い子にドキドキするまでは動いちゃ駄目だとか言われたら動揺し過ぎて強制ログアウトしてしまいそうになる。  だが、リシャミーよ。1つ演算ミスがあるぞ?7秒じゃない。リシャミーが椅子の上に乗ろうとした際に0.(コンマ)2秒だけ覗かせた下着の色が確認できた時には既にドキドキしていたさ、残念だったな。
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